公開日:2026年2月17日 最終更新:2026年7月25日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
事業承継・M&A補助金は、事業承継やM&Aに着手する中小企業・小規模事業者を対象にした国の補助制度です。
「うちもそろそろ代替わりを考えないと……」
山梨県内の経営者の方と話していると、ここ数年でこうした声が本当に増えました。中小企業の経営者の高齢化が進むなか、事業承継は「いつかやること」ではなく「今すぐ動き始めるべきこと」になっています。
その第一歩を後押ししてくれる制度が、国の「事業承継・M&A補助金」です。この記事では、元銀行員・中小企業診断士として事業承継の現場に携わってきた立場から、制度の全体像を枠ごとにわかりやすく整理し、申請前に押さえておくべきポイントをお伝えします。
結論を先に言えば、事業承継・M&A補助金は承継の「段階」に応じて4つの枠があり、補助上限は150万〜2,000万円、補助率は1/2〜2/3です。申請はJグランツでの電子申請のみで、GビズIDプライム(取得に2〜3週間)が必須です。まず4枠の早見表で、自社がどこに当てはまるかを確認してください。
| 枠 | こんな方向け | 補助上限 | 補助率 |
|---|---|---|---|
| ①事業承継促進枠 | 親族内・従業員承継を5年以内に予定 | 800万円(賃上げで1,000万円) | 1/2(小規模2/3) |
| ②専門家活用枠 | M&Aの仲介・専門家費用 | 600万〜800万円(大手2,000万円) | 1/2〜2/3 |
| ③PMI推進枠 | M&A成立後の経営統合 | 150万〜800万円 | 1/2(小規模2/3) |
| ④廃業・再チャレンジ枠 | 廃業・再挑戦を伴うケース | 300万円(他枠と併用で加算) | 2/3又は1/2 |
山梨県内で使える他の補助金とあわせて検討したい方は、山梨県の中小企業が使える補助金一覧もご覧ください。
現在の公募状況(2026年7月時点):直近の15次公募は、申請受付が2026年6月19日〜7月24日で終了しました。現在は採択に向けた審査・交付申請の段階です。次回(16次)公募の日程は、本記事の更新時点では公式に公表されていません。制度は公募回ごとに枠の構成や補助上限が見直されることがあるため、実際に申請する際は必ず事業承継・M&A補助金 公式サイトで最新の公募回・公募要領をご確認ください。
事業承継・M&A補助金とは?2026年の制度全体像
事業承継・M&A補助金は、中小企業・小規模事業者が事業承継やM&Aに際して行う設備投資、専門家の活用、経営統合にかかる費用の一部を国が補助する制度です。
もともとは「事業承継・引継ぎ補助金」(1次〜10次公募)という名称で運用されていましたが、11次公募(令和6年度補正予算)から制度の枠組みと名称が見直され、現在の「事業承継・M&A補助金」に変わりました。枠の構成や補助上限にも変更が入っているため、以前の制度をご存じの方も改めて確認をお勧めします。
この制度の大きな特徴は、事業承継の「段階」に応じて4つの枠が用意されている点です。承継前の準備段階から、M&A成立後の経営統合、さらには廃業を伴うケースまで、幅広い場面をカバーしています。
なお、直近の15次公募は令和7年度補正予算に基づいて実施されました。制度の根拠となる予算年度や枠の細部は公募回ごとに見直されることがあります。
申請方法とスケジュールはどうなっている?
事業承継・M&A補助金は、公募回ごとに「公募要領の公表 → 申請受付(数週間) → 審査 → 採択発表 → 交付申請・補助事業の実施 → 実績報告」という流れで進みます。参考までに、直近の15次公募(令和7年度補正予算)のスケジュールは次のとおりでした。
公募要領公表: 2026年5月22日
公募申請受付: 2026年6月19日〜7月24日 17:00
申請方法: 電子申請(Jグランツ)のみ ※郵送・窓口での申請は不可
申請方法はどの公募回でも共通で、Jグランツでの電子申請のみです。Jグランツを使うにはGビズIDプライムアカウントが必須で、取得には通常2〜3週間かかります。これから申請を考えている方は、公募が始まってから慌てないよう、GビズIDプライムだけは先に取得しておくことをおすすめします。回次ごとにオンライン説明会も実施されるので、初めて申請を検討される方は参加しておくとよいでしょう。
受付期間や締切は公募回ごとに異なり、直前に変更されることもあります。申請の前に必ず事業承継・M&A補助金 公式サイトで最新の公募要領をご確認ください。
4つの枠を一つずつ解説
①事業承継促進枠──親族内・従業員承継をこれから行う方向け
事業承継促進枠は、公募申請期日から5年以内に親族内承継または従業員承継を予定している中小企業者・個人事業主が対象です。承継にあたって必要となる設備投資や、店舗・事務所の改築費用などが補助されます。
補助率: 1/2以内(小規模事業者は2/3以内)
補助上限額: 800万円(一定の賃上げを実施する場合は1,000万円に引上げ)
主な補助対象経費: 設備投資費用、店舗・事務所の改築工事費用 等
補助上限の引上げには、事業場内最低賃金の引上げや給与支給総額の増加といった賃上げ要件を満たす必要があります。申請時に「賃金引上げ計画誓約書」などの書類を提出する必要があり、あとからの追加は認められません。
また、事業計画には付加価値額(=営業利益+人件費+減価償却費)の年率3%以上の向上を示す計画が求められます。銀行員時代の経験から申し上げると、審査する側が見ているのは「目標の高さ」ではなく「その数字に合理的な根拠があるかどうか」です。設備投資によって何がどう変わるのかを、具体的な数字で裏付けることが採択への近道になります。
②専門家活用枠──M&Aを進めている・これから着手する方向け
専門家活用枠は、M&Aによって経営資源を譲り受ける、あるいは譲り渡す予定の中小企業等が対象です。M&Aに関する専門家費用が補助されます。「買い手支援類型」と「売り手支援類型」に分かれています。
<買い手支援類型>
補助率: 2/3以内 ※100億企業要件を満たす場合は、1,000万円以下の部分が1/2、1,000万円超の部分が1/3
補助上限額: 600万円(DD費用を申請する場合は+200万円で上限800万円)。100億企業要件を満たす場合は上限2,000万円
<売り手支援類型>
補助率: 1/2以内(①赤字決算、または②営業利益率の低下に該当する場合は2/3以内)
補助上限額: 600万円(DD費用を申請する場合は+200万円で上限800万円)
<小規模売り手支援類型(15次公募で新設)>
15次公募では、小規模事業者がM&Aで事業を譲り渡す際の仲介手数料等を補助する「小規模売り手支援類型」が新たに設けられました。補助上限額は450万円以内・補助率は2/3以内で、廃業を伴う場合は廃業費として+150万円まで上乗せできます。小規模事業者がより使いやすい設計になっています(数値は15次公募要領時点。公募回により変わる可能性があります)。
補助対象となる主な経費は、FA(ファイナンシャルアドバイザー)や仲介にかかる費用、デューデリジェンス費用、セカンドオピニオン費用、表明保証保険料などです。ただし、FA・仲介費用についてはM&A支援機関登録制度に登録された事業者に支払うものに限られる点に注意が必要です。
また、原則として2者以上から見積を取得することが求められます。見積書には発行者・金額内訳・業務受託期間・受託業務の範囲の記載が必要です。
③PMI推進枠──M&A成立後の経営統合に取り組む方向け
PMI(Post Merger Integration)とは、M&A成立後に行われる経営統合のプロセスのことです。この枠は「PMI専門家活用類型」と「事業統合投資類型」の2つに分かれます。
<PMI専門家活用類型>
補助率: 1/2以内 補助上限額: 150万円
統合方針の策定等に関して専門家を活用する取組が対象です。
<事業統合投資類型>
補助率: 1/2以内(小規模事業者は2/3以内) 補助上限額: 800万円(賃上げ実施で1,000万円に引上げ)
会計・受発注システムの統合や、拠点集約に伴う設備投資などが対象です。
注意点として、PMI専門家活用類型と事業統合投資類型には前後関係があり、同一公募回での同時申請はできません。まず統合方針の策定(専門家活用類型)を行い、次の公募回以降に設備投資等(事業統合投資類型)に進む流れが想定されています。
④廃業・再チャレンジ枠──事業整理を伴うケースに
事業承継やM&Aに伴い既存事業を廃業する場合、あるいはM&Aが成約に至らず新たな取組に挑む場合に使える枠です。
補助率: 2/3又は1/2以内 ※他の枠と併用申請する場合は、各事業における事業費の補助率に従います。
補助上限額: 300万円 ※他の枠と併用申請する場合は、それぞれの補助上限に加算されます。
主な補助対象経費: 廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、土壌汚染調査費 等
この枠の特徴は、事業承継促進枠・専門家活用枠・PMI推進枠と併用申請ができることです。たとえば事業承継促進枠(賃上げ要件あり・上限1,000万円)と併用すれば、最大1,300万円の補助を受けられる計算になります。
単独で申請する「再チャレンジ申請」の場合は、M&Aで事業を譲り渡せなかった中小企業等の株主や個人事業主(法人の場合は株主、個人事業主の場合は本人)が、新規事業に取り組むために既存事業を廃業するケースが対象となります。
過去の採択実績──「6割」の背景を読む
15次公募の結果は、本記事更新時点(2026年7月)でまだ公表されていません。直近の14次公募(2026年4月3日受付終了、2026年5月15日結果公表)を含め、事業承継・M&A補助金事務局から直近4回の採択実績が公表されています。
11次公募(専門家活用枠のみで実施): 申請590件 → 採択359件(採択率 約60.8%)
12次公募(全4枠で実施): 申請742件 → 採択453件(採択率 約61.1%) 内訳:事業承継促進枠:250→152件、専門家活用枠:436→266件、PMI推進枠:55→34件、廃業・再チャレンジ枠:1→1件
13次公募(全4枠で実施): 申請481件 → 採択293件(採択率 約60.9%) 内訳:事業承継促進枠:182→111件、専門家活用枠:267→163件、PMI推進枠:32→19件
14次公募(全4枠で実施): 申請512件 → 採択311件(採択率 約60.7%) 内訳:事業承継促進枠:169→103件、専門家活用枠:299→180件、PMI推進枠:43→27件、廃業・再チャレンジ枠:1→1件
11次〜14次のいずれの回も、全体の採択率はおおむね60〜61%で推移しています。一見すると「6割も通るなら出してみよう」と思えるかもしれませんが、そう単純な話ではありません。
この補助金はそもそも準備のハードルが高く、GビズIDの取得、認定支援機関との調整、事業計画の策定、各種書類の準備を経て初めて申請に至ります。つまり「書類が整わなかった人は最初から母数に入っていない」のです。
裏を返せば、しっかり準備すれば十分に手が届く補助金だということです。「出せば通る」とは言えませんが、「丁寧に準備すれば通る確率は十分にある」──それがこの採択率の示す意味だと私は考えています。採択率を上げるための申請前の準備については、補助金の採択率を上げるために申請前にやるべき3つのことでも詳しく解説しています。