公開日:2026年7月19日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
補助金のご相談で最初に多いのが、「申請、全部お任せできますか」という質問です。書類は複雑で、本業は忙しい。任せたくなる気持ちはよく分かります。ただ、この「代行」という言葉のまわりには、法律の線引きと、残念ながら悪質な業者の両方が潜んでいます。
結論から言えば、補助金申請の「代行」とは、丸ごと任せられるサービスではありません。①申請書類そのものの作成を有償で代理できるのは原則として行政書士(2026年1月施行の行政書士法改正で明文化)、②事業計画の中身づくりの支援(相談・助言)は中小企業診断士などが適法に担い、③電子申請の提出は事業者本人が行う——これが仕組みの全体像です。この3つの線引きを知っているだけで、怪しい業者はかなりの精度で見分けられます。
私は元銀行員として法人融資の審査に携わり、いまは中小企業診断士・認定経営革新等支援機関として補助金申請を支援する側にいます。つまりこの記事は「代行を売る側」の立場で書いています。だからこそ、売る側に不都合なことも含めて、頼む側が知っておくべきことを先に全部書きます。
補助金申請の「代行」はどこまで頼めるのか
まず仕組みの話です。国の補助金の多くは、電子申請システム「jGrants(Jグランツ)」とGビズIDプライムアカウントで申請します。ここに公式の「委任」の仕組みがあります。
デジタル庁の資料によると、jGrantsには代理申請の機能があり、事業者がGビズID上で行政書士等に正式に委任すれば、申請書類の「作成」を代理してもらえます。ただし「提出」は事業者自身が行います。つまり制度の設計自体が「作成は専門家に頼めるが、最後のボタンは本人が押す」という形なのです。
ここから逆算すると、やってはいけないことも明確になります。自社のGビズIDとパスワードを業者に渡して、申請から何から全部やってもらう。これはGビズIDの利用規約が禁じる「なりすまし」「アカウントの共用」にあたります。正式な委任機能があるのに、それを使わずID貸しを求めてくる業者は、その時点で避けるのが賢明です。なお、制度によっては委任自体を認めないものもあります。たとえば新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は公募要領で代理申請不可・口頭審査は本人対応と定めています。
補助金申請の代行は違法になるのか——2026年1月に何が変わったか
「補助金申請代行 違法」と検索される方が多いのですが、不安はもっともです。ここは2026年に大きな動きがありました。
行政書士法の改正(令和7年法律第65号)が2026年1月1日に施行され、行政書士でない者が「手数料」や「コンサルタント料」など名目を問わず、報酬を得て業として官公署に提出する書類を作成することは違法。この従来からの解釈が、条文に明示されました。補助金の申請書類は官公署に提出する書類ですから、無資格の業者が報酬を取って申請書を書き上げる行為は、この規定に正面から触れます。総務省の通知も、違反行為の抑制を図る趣旨だと説明しています。
では中小企業診断士やコンサルタントは何もできないのかというと、そうではありません。中小企業診断士には独占業務がなく、その代わり「作成」ではなく事業計画の設計・助言という形で支援します。実際、補助金の審査で問われるのは書類の清書力ではなく事業計画の中身です。数字の根拠を組み立て、審査項目に沿って計画を磨き込む。ここが診断士やコンサルタントの仕事で、書類の作成代理そのものが必要な場面は行政書士の領域です。当社の補助金支援もこの線引きの中で、「計画の中身を一緒に作り込み、申請は事業者本人が行う」形をとっています。逆に、雇用関係の助成金(厚生労働省系)の申請書類は社会保険労務士の領域です。「補助金も助成金も全部うちで」という業者には、誰がどの資格でやるのかを確認してください。
誰に頼めばいいのか——依頼先ごとの違い
依頼先の選択肢と得意分野を整理します。
| 依頼先 | できること・強み | 注意点 |
| 商工会議所・商工会 | 無料で相談できる公的窓口。持続化補助金では計画書の確認役も担う | 書き上げる作業は自分で行う前提 |
| 行政書士 | 申請書類の作成を有償で代理できる(法律上の担い手) | 事業計画の中身の設計力は事務所による |
| 中小企業診断士 | 事業計画の設計・数字の根拠づくり・審査項目対応 | 独占業務はない。書類作成の代理は行政書士と連携 |
| 税理士・金融機関 | 財務データを既に把握しており計画の数字に強い | 補助金の支援実績は先ごとに差が大きい |
| 社会保険労務士 | 雇用関係の助成金(厚労省系)の専門家 | 経産省系の補助金は本来の領域外 |
| コンサルティング会社 | 制度情報の収集力・件数をこなす体制 | 資格の有無・誰が書くのかの確認が必須 |
もう一つ、頼む前に知ってほしい公的データがあります。国の補助金事務局が行った調査では、申請した事業者の支援者のうち約3分の2は報酬なしで支援していました。顧問税理士や取引金融機関、商工会議所が無償で見ているケースが実は多数派なのです。「有料の代行に頼むのが当たり前」ではない、という前提から出発してください。そのうえで専門的な支援を頼むなら、国が認定した支援機関を認定経営革新等支援機関の検索システムで探せます。事業承継・M&A補助金のように、認定支援機関の確認書が申請要件になっている制度もあります。
費用はどう見るか——「相場」より契約の中身
費用について、まず正直に言うと公的な料金統計は存在しません。各社が公表している料金を横断すると、着手金を数万円〜十数万円+採択時の成功報酬という二段構えが多く、完全成功報酬型は料率が高めになる傾向があります。ただこれは業者の自己申告を並べたものにすぎません。金額の高い安いより、次の3点を契約書で確かめるほうがよほど重要です。
- 支援の範囲はどこまでか。補助金は採択がゴールではありません。交付申請、実績報告(ここまで終えて初めて入金)、さらに制度によっては5年間の事業化状況報告まで続きます。「採択まで」の契約なのか、入金まで並走するのか、その後の報告は別料金か。ここが曖昧な契約は、採択後に想定外の追加費用や「誰もやってくれない」事態を生みます。
- 不採択のときはどうなるか。着手金は返らないのが普通ですが、持続化補助金のように年に複数回公募がある制度なら、1回の不採択で終わりではなく、修正して次回に再申請するまでを一つの契約として扱ってくれるかは確認する価値があります。私自身、定期公募の制度ではそのような組み方をお勧めしています。
- 誰が実際に支援するのか。契約した専門家本人か、外注先か。国の事務局は、認定支援機関が支援を他者へ丸ごと委託・外注する行為を不正行為と明記しています。
なお、料金の高さと採択の可能性は比例しません。審査は事業計画の中身で決まります。補助金の採択率を上げるために申請前にやるべきことで書いたとおり、打ち手の多くは費用をかけずに自社でできるものです。
怪しい業者の見分け方——国の注意喚起から作ったチェックリスト
悪質業者への警戒は、私の個人的な意見ではなく国の公式見解です。補助金の事務局は公募要領の中で「提供するサービスの内容とかい離した高額な成功報酬等を請求する、経費の水増しを提案するなどの悪質な業者等にご注意ください」と明記し、不適切な行為の例まで挙げていました。それを頼む側のチェックリストに翻訳したのが次の7項目です。1つでも当てはまったら、契約を止めて他をあたってください。
| ✓ | チェック項目 | 背景 |
| □ | 「必ず通る」「採択率90%以上」を前面に出す | 採択は審査で決まり、確約は誰にもできない。高い数字は「通りそうな案件しか受けない」選別の結果であることも |
| □ | 経費の水増しや実態と違う計画をほのめかす | 国が挙げる不適切行為の典型。不正受給は補助金適正化法により5年以下の懲役等の対象で、返還だけでは済まない |
| □ | 申請書に支援者(作成支援者)の名前を書かせない | これも国が挙げる不適切行為の例。名前を出せない支援には理由がある |
| □ | GビズIDとパスワードを渡すよう求める | 規約違反。正式な委任機能を使わない理由がない |
| □ | 金額や条件が不透明な契約・強引な電話営業 | 国が挙げる不適切行為の例そのもの |
| □ | 支援範囲が「採択まで」で、実績報告に触れない | 入金までの長い後工程を知らないか、意図的に伏せている |
| □ | あなたの事業の中身をほとんど聞かずに「いけます」と言う | 審査は事業の中身で決まる。聞かずに判断できるはずがない |
ひとつ種明かしをすると、誠実な専門家ほど歯切れが悪く聞こえるものです。私自身、初回のご相談では「ちょっとデメリットからお話ししちゃうんですけど」と切り出して、入金までの遅さや立て替えの負担を先に伝えます。事業の強みを伺ったうえで「比較的採択されやすい部類だと思います。ただ、100%はお約束できません」——これが審査を知っている人間の、正直な言い方の上限です。即答で「通ります」と言い切る相手のほうを、むしろ疑ってください。
なぜ「丸投げ」では結局損をするのか
法律の話を抜きにしても、丸投げはお勧めしません。理由は審査の構造にあります。
銀行の融資審査でも同じでしたが、自分の計画を自分の言葉で説明できない社長の案件は、書類がどれだけ立派でも通りにくい。補助金も、採択後には交付申請・実績報告・検査と、事務局とのやり取りが何年も続きます。統合後の新事業進出・ものづくり商業サービス補助金のように口頭審査を本人対応と定める制度まで出てきました。他人が書いた計画書は、この長い道のりのどこかで必ず化けの皮が剥がれます。
だから私は、支援の役割は「代筆」ではなく「壁打ちの相手」だと考えています。事業の中身は社長にしか語れません。専門家の仕事は、その中身を審査項目の言葉に翻訳し、数字に根拠を持たせ、抜け漏れを潰すことです。省力化投資補助金(一般型)や持続化補助金のような計画審査型の制度ほど、この分担がそのまま採択率に効いてきます。
山梨で補助金申請の支援を頼むなら
山梨県内であれば、まず商工会議所・商工会の窓口で相談するのが第一歩です。無料ですし、持続化補助金なら計画書の確認役として関与も受けられます。そのうえで、事業計画の設計から採択後の実績報告まで専門家の並走が必要な場合は、池田計画合同会社にご相談ください。認定経営革新等支援機関・中小企業診断士として、元銀行員の審査側の視点で計画づくりを支援しています。支援した案件の実績は採択実績のページで、制度名・テーマを公開しています。AI補助金診断・補助金支援サービスから、自社に合う制度の確認だけでも可能です。
どの制度を狙うか決まっていない方は、山梨県の中小企業が使える補助金・助成金一覧から自社に合うものを探してみてください。「この業者に頼んでいいのか迷っている」という段階のセカンドオピニオンでも構いません。無料相談で、契約書のチェックポイントも含めてお伝えします。
※本記事の法令・制度の記載は2026年7月時点の情報に基づきます。個別の法律判断が必要な場合は、行政書士・弁護士等の専門家にご確認ください。
よくある質問
雇用調整助成金やキャリアアップ助成金も同じところに頼めますか?
いいえ。雇用関係の助成金(厚生労働省系)の申請書類は社会保険労務士の業務領域で、行政書士や無資格のコンサルタントが有償で扱うことはできません。補助金(経産省系)と助成金(厚労省系)で依頼先が変わる、と覚えておいてください。
無料で相談できる公的窓口があるのに、有料で頼む意味はありますか?
まず商工会議所・商工会などの無料窓口で十分なケースは多くあります。有料の支援が生きるのは、投資額が大きく計画の完成度が採択を左右する制度(新事業進出・ものづくり商業サービス補助金や省力化投資補助金の一般型など)で、数字の根拠づくりや審査項目対応まで踏み込んだ伴走が必要な場合です。
不採択だった場合、支払った費用はどうなりますか?
一般的な契約では着手金は返金されず、成功報酬は発生しません。ただし年に複数回公募がある制度では、修正して次回再申請するまでを一つの契約に含める組み方もあります。契約前に「不採択時の再申請は含まれるか」を必ず確認してください。
GビズIDのパスワードを業者に教えてもよいですか?
教えてはいけません。GビズIDの利用規約はなりすましやアカウントの共用を禁じています。書類作成を頼む場合は、GビズID上の正式な委任機能を使えば、IDを渡さずに行政書士等へ作成を委任できます。パスワードの提供を求める業者はその時点で避けるべきです。
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