公開日:2026年7月11日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
「財務モデルを作れと言われたが、専門用語ばかりで手がつかない」「エクセルで数字は並べたけれど、前提を一つ変えるたびに全部打ち直していて、これで合っているのか自信がない」。創業前の方や、初めて事業計画の数字を組む経営者から、こうしたご相談をよくいただきます。ネットで「財務モデル」を調べると、投資銀行やコンサルの高度な話ばかりが出てきて、かえって身構えてしまうんですよね。
結論から言えば、財務モデルとは、単価・数量・費用などの「前提」を入力すると、損益と資金繰りが自動で計算される、事業計画の数字部分をエクセル等で組んだ仕組みのことです。むずかしい理論は要りません。中小企業や創業者に必要なのは、前提を変えると結論(利益・現金)まで一気に連動して変わる、一枚の「動く計算表」です。
私は元銀行員で法人融資の審査に携わり、いまは中小企業診断士・認定経営革新等支援機関として、山梨を中心に事業計画や資金繰りのご相談に乗っています。融資を審査する側にいたので、「数字が伝わる計画」と「伝わらない計画」の差は、いやというほど見てきました。この記事では、弁当店を例にした実物のエクセル見本と、Claudeなどの生成AIを使った作成・チェックの手順を、審査してきた側の視点でまとめます。読み終えるころには、創業者の方でも自分の手でたたき台を組めるようになっているはずです。
はじめに一つだけお断りを。この記事は融資・自己管理のための財務モデルを扱います。補助金の申請とは目的も審査の考え方も別物なので(融資は返済可能性を、補助金は政策的な意義や実現性を見ます)、そこは交通整理をしながら進めます。
財務モデルとは?事業計画の数字を「動く仕組み」にしたもの
財務モデルとは、前提(単価・数量・費用)を入れ替えると損益と資金繰りが自動で計算される、事業計画の数字部分を数式で組んだエクセル等の仕組みです。
財務モデルを作る目的は、大きく二つです。一つは「この事業は回るのか」を自分の目で確かめること。もう一つは「回る根拠」を金融機関に説明できる形にすることです。頭の中の「たぶん大丈夫」を、誰が見ても検証できる数字に翻訳する道具、と考えてください。
構成要素は、突き詰めるとシンプルです。①前提条件(単価・数量・費用・借入条件などの入力)、②損益計画(PL)、③資金繰り計画、④返済計画。この4つが数式でつながっていれば、中小企業の財務モデルとしては十分に機能します。
穴埋めテンプレートとの決定的な違い
「無料の事業計画テンプレートと何が違うの?」とよく聞かれます。違いは一点、前提を変えたときに、結果が連動して動くかどうかです。
穴埋めテンプレートは、完成した数字を書き込む「清書用紙」です。単価を50円下げてみようと思っても、下の利益も、資金繰りも、手で全部計算し直さなければなりません。一方の財務モデルは、前提の一つのセルを書き換えるだけで、損益も、現金残高も、返済後にいくら残るかまで、瞬時に計算し直してくれます。「もし単価を750円にしたら?」「客数が2割落ちたら?」を、その場で何十通りも試せる。これがモデルであることの値打ちです。だから「財務モデルを作る」とは、数字を書くことではなく、数字が動く仕組み(数式のつながり)を組むことだと理解してください。
中期経営計画・資金繰り表・経営改善計画書との関係
似た言葉が多くて混乱しやすいので、先に交通整理をしておきます。財務モデルは、これらの計画の「数字のエンジン部分」だと捉えると、すっきりします。
- 中期経営計画は、3〜5年の成長ストーリーを描く計画。その数値部分を裏で支えるのが財務モデルです(作り方は「中期経営計画の作り方」で解説しています)。
- 資金繰り表は、現金の出入りを月次で追う表。財務モデルの一部(③)そのものです。
- 経営改善計画書は、業績が悪化した会社が金融機関に立て直しを説明する書類。その数値計画も財務モデルで組みます(「経営改善計画書の書き方」を参照)。
審査する側にいた立場から一言添えると、金融機関が最終的に見ているのは「数字の根拠」です。前提から結論までが数式で一本につながったモデルは、口頭での説明力がまるで違います。「この売上はどう積み上げたのですか」と問われて、前提のセルを指さして「単価800円×客数で、この客数の根拠はこうです」と即答できる。逆に、根拠を聞かれて計画書をめくって黙り込む。これが一番まずいパターンです。財務モデルは、その場で答えられる自分になるための準備でもあります。
財務モデルの作り方5ステップ【エクセル見本付き】
①前提条件→②損益→③資金繰り→④返済→⑤検算。財務モデルの作り方は、この5ステップが骨になります。前提シートを起点に、すべてを数式で連動させていきます。
ここからは、具体的な題材で手を動かしていきましょう。例に使うのは、創業1年目の弁当店です。条件はこう置きます(数字は見本用の仮条件です)。
- 販売単価 P = 800円
- 1食あたりの変動費(食材・容器など) V = 320円
- 1食あたりの限界利益 m = 800 − 320 = 480円
- 月の固定費(家賃・人件費・水道光熱費・減価償却費など) F = 96万円
- 開業資金として日本政策金融公庫から 600万円 を借入(元金均等返済)
この単価・変動費・固定費・限界利益の数字は、コラム「固定費から逆算する「生存売上」の出し方」で使ったのとまったく同じ弁当店です。あちらでは「いくら売れば生き残れるか」を一回の割り算で出しました。この記事では、それをエクセルの「動くモデル」に組み上げていきます。あわせて読むと、考え方から実装までが一本でつながります。
ステップ0 先にルールを決める(色ルール・設計原則)
作り始める前に、必ずルールを決めてから手を動かしてください。ここを飛ばすと、あとで自分でも解読できない表になります。まず金融実務で広く使われている「色ルール」です。
| 文字色 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 青字 | 手入力するセル(前提・仮定) | 単価800、変動費320、固定費96万 |
| 黒字 | そのシート内の数式で計算される値 | 限界利益=単価−変動費 |
| 緑字 | 他のシートを参照している値 | 資金繰り表が損益シートの利益を引く |
色を見ただけで「ここは触っていい入力欄」「ここは触ってはいけない計算結果」が区別できる。これだけで、モデルの事故は劇的に減ります。これに、次の4つの設計原則を足してください。
- 入力(前提)と計算を分ける。前提はすべて一枚の「前提条件シート」に集める。計算シートに直接数字を打たない。
- 数式に直値を打ち込まない(ハードコード禁止)。「=1200*800」ではなく「=客数セル*単価セル」。直値を埋め込むと、前提を変えても連動しません。
- 同じ行は同じ数式。1月の式をそのまま右へコピーすれば12月まで埋まる形に統一する。
- 時間軸は左→右。月を左から右へ並べる。上から下ではなく、横に流すのが基本です。
ステップ1 前提条件シート(数字の置き場を1か所に)
最初に作るのは、モデルの心臓部である前提条件シートです。ここに、事業を動かす「ドライバー(変数)」を全部、青字で並べます。弁当店なら、こんな項目です。
- 販売単価(800円)、1食あたり変動費(320円)
- 初月の販売食数(例:1,200食)、毎月の増加数(例:+200食)
- 固定費の内訳(家賃・人件費・水道光熱費・その他・減価償却費)
- 借入条件(借入額600万円・金利・返済期間)
コツは、「あとで見直したくなりそうな数字」を、すべてこのシートに逃がしておくことです。客数が読めないなら、初月の食数と増加数を分けて置く。すると「立ち上がりが遅れたら?」を、その2つを触るだけで試せます。前提を一か所に集めるほど、モデルは軽くなり、説明もしやすくなります。
販売数量は「量×歩留まり」まで分解する
売上は、突き詰めれば客数 × 客単価(× 購入頻度)に分解できます。弁当店の見本では、1人が1回に1食を買う前提なので、客数はほぼ食数、購入頻度も1回とみなして「食数 × 単価」に簡約しています。だから前提の「毎月+200食」とは、この客数(食数)の伸びのこと。ここを、なんとなくの右肩上がりで置いてはいけません。
その客数の伸びを、もう一段、量 × 歩留まりまで割ります。量は、自分で決められる行動量です。チラシを何部撒くか、投稿を何本出すか、何件訪問するか。歩留まりは、市場が返してくる率です。チラシの反応率、投稿からの来店率、訪問の成約率がこれにあたります。この2つを分けておくのが肝で、数量が計画に届かなかったとき、「量が足りなかったのか、それとも歩留まりが思ったより低かったのか」を切り分けられます。
見本の+200食を、この形に割り直すとこうなります(内訳は見本用の仮の数字です)。
| 行動 | 量(自分で決める) | 歩留まり(市場が返す) | 寄与 |
|---|---|---|---|
| 折込チラシ | 5,000部 | 反応率 1.6% | 80食 |
| 月間リーチ 3,000人 | 来店転換率 2.0% | 60食 | |
| 法人配達の営業 | 訪問 10件 | 成約率 20%(1社あたり月30食) | 60食 |
| 合計 | 200食 |
法人だけは寄与が二段です。訪問10件 × 成約率20%で2社が決まり、1社あたり月30食で60食(式にすれば「件数 × 成約率 × 1社あたり食数」)。この3行を積み上げた合計が、毎月の+200食になります。
この形にしておくと、数量が未達だったときの打ち手がはっきりします。量が足りないならチラシを2回に増やす、訪問先を広げる。歩留まりが低いなら、チラシの中身やInstagramの見せ方を作り直す。「どこが効かなかったか」が工程で見えるので、翌月の一手が具体的になります。行動の裏づけのない右肩上がりの線は、審査する側から見ると、この内訳が空欄のまま伸びているのが一番よく分かってしまいます。
もう一つ大事なのが、新しく始める事業と、長く続けている事業では、効くレバーが違うという点です。新事業は、歩留まりの実績がまだ手元にありません。だから、量を自分でコントロールできる形(チラシ部数・訪問件数)で計画を組み、歩留まりはいったん仮に置いて、動き出したら実測値に差し替えていきます。反対に、何年も続けている事業には、歩留まりのデータが社内に眠っています。ただ、実務で拝見していると、工程ごとの数を実際に数えている会社は多くありません。「分かっているつもり」の体感値と実測値がズレていることも、よくあります。だからまず測る。そのうえで、こういう事業では量を増やすより歩留まりを1ポイント上げるほうが大きく効くことが少なくありません(もちろん、量を増やす手も残っています)。
その歩留まりを実際に手に入れるには、販売の工程(ファネル)を並べて、各工程の実数を数えるのが早道です。たとえば住宅販売なら、先月の数字はこんなふうに落ちていきます(これも仮の例です)。
- 問い合わせ 20件
- 現地案内 12件(案内率 60%)
- 商談 6件(商談化 50%)
- ローン事前審査 4件(審査到達 67%)
- 契約 2件(成約 50%)
問い合わせから契約まで通すと、契約に至るのは問い合わせの10%。まずは自社の工程を左から並べ、各工程の「先月の実数」を数えるところから始めてください。ここまで落とすと、どの工程の歩留まりを上げれば数量が動くかが見えて、事業計画・財務計画がはじめて「生きたもの」になります。
融資審査で見られているのも、結局はこの2点です。その量は、行動として本当に実行できるのか(チラシ5,000部を毎月撒く体制はあるか)。そしてその歩留まりに、根拠があるのか(過去の実績か、小さく試したテスト結果か)。この2つに答えられる計画は、前提のセルを指させば説明が済みます。
作り方は難しくありません。前提条件シートに「数量計画」の区分を作り、量(部数・リーチ・件数)と歩留まり(率)、法人の1社あたり食数を青字で置く。各行の寄与と、その合計である毎月の増加数は、それらを掛け合わせた数式(黒字)にしておく。こうすれば、効きが読めない数字だけを触って、何通りも試せます。
ステップ2 損益計画(月次12ヶ月のPL)
前提が置けたら、月次12ヶ月の損益計画(PL)を作ります。流れは、生存売上のコラムで使った積み木そのままです。
販売食数 × 単価 = 売上高。そこから 食数 × 変動費 = 変動費 を引いて 限界利益。限界利益から固定費96万円を引いたものが 営業利益 です。すべて前提条件シートを参照した数式(黒字と緑字)で組むので、単価のセルを一つ動かせば、12ヶ月分の利益が一斉に変わります。
この見本の読みどころは、損益分岐点です。初月1,200食から毎月200食ずつ伸びる前提だと、販売食数が月2,000食に届く5ヶ月目に、営業利益がちょうどゼロ(損益分岐)になります。96万円 ÷ 480円 = 2,000食、という生存売上コラムの割り算が、月次モデルの上でそのまま姿を現すわけです。4ヶ月目までは赤字、6ヶ月目からは黒字。この「いつ黒字化するか」が一目で見えるのが、月次PLの価値です。
言葉だけだと追いにくいので、見本の数字で1月目の流れを見てみましょう。
- 1,200食 × 800円 = 売上高 96万円
- 変動費 1,200食 × 320円 = 38万4,000円
- 限界利益 96万 − 38.4万 = 57万6,000円
- 固定費 96万円 を引くと 営業利益 ▲38万4,000円(赤字スタート)
これが5ヶ月目になると、こう変わります。
- 2,000食 × 480円 = 限界利益 96万円 = 固定費 96万円
- 営業利益 0円(損益分岐にちょうど到達)
見本のシートには「計算根拠」の列を入れてあります。どの行が何の掛け算・引き算かが、シートの中だけで追えます。
ステップ3 資金繰り表(利益と現金は別物)
ここが、多くの人がつまずく山場です。正直なところ、この「利益と現金は別物」という話は、何度お伝えしても伝わりにくく、私も毎回どう噛み砕くか悩みます。利益が出ていることと、現金があることは、別物です。財務モデルにPLしか無いと、この落とし穴にまるごと落ちます。ズレを生む代表格が二つあります。
- 減価償却費。PLでは費用として利益を減らしますが、現金は出ていきません。だから資金繰りでは利益に足し戻します。
- 借入元金の返済。現金は確実に出ていきますが、PLには費用として出てきません(費用になるのは利息だけ)。だから資金繰りでは別に差し引きます。
この2つを調整して、月初の現金+(利益+減価償却−元金返済)=月末の現金、と積み上げていくのが資金繰り表です。弁当店の見本は、自己資金200万円と借入600万円から開業時の内装・厨房設備に300万円を使い、手元500万円でスタートする前提です。これで計算すると、PL上は5ヶ月目に損益分岐でも、現金は減り続け、5ヶ月目末に約374万円まで落ち込んで底を打ちます。600万円借りてスタートしても、赤字期の穴埋めと元金返済で、開業時の手元資金の4分の1が5ヶ月で消える——黒字化の前に現金の底が来るという順序を、モデルは冷徹に映し出します。
月初の現金から月末の現金まで、1月目の実際の数字で追うと、こうなります。
- 月初現金 500万円(自己資金200万+借入600万−初期投資300万)
- 経常収支 ▲34万4,000円(売上96万 − 変動費38.4万 − 現金固定費91万 − 利息1万)
- 借入元金の返済 ▲10万円
- 月末現金 455万6,000円
この1月目の計算を12ヶ月ぶんつないでいくと、さきほどの「5ヶ月目末・約374万円」という底が姿を現します。
審査する側にいて一番恐ろしいのは、計画上は黒字なのに現金がショートする事態です。だからこそ、財務モデルでは「月末残高が一度もマイナスにならないか」を必ず確認してください。ここが確認できるだけで、資金繰り表を作る価値は十分にあります。
ステップ4 返済計画
借入がある事業なら、返済計画のシートを別に作ります。弁当店の見本は元金均等返済(毎月同じ額の元金を返す方式)です。ここで押さえる要点は、利息の計算です。
各月の支払利息 = 前月末の借入残高 × 年利 ÷ 12。残高は毎月減るので、利息も少しずつ軽くなっていきます。そして、この返済計画が出す2つの数字は、それぞれ行き先が違います。
- 支払利息 → 損益計画(PL)へ(費用になる)
- 元金返済額 → 資金繰り表へ(現金だけ出ていく)
同じ「返済」でも、利息と元金で流れ込む先が分かれる。これがまさに、ステップ0で決めた緑字(他シート参照)の出番です。返済計画シートで計算した利息を、PLが緑字で引っ張ってくる。元金を、資金繰り表が緑字で引っ張ってくる。シート同士が数式でつながって、はじめて「動くモデル」になるわけです。
ステップ5 検算と感応度(モデルを疑う)
最後は、作ったモデルを自分で疑う工程です。組み上がった直後のモデルは、たいていどこか間違っています。次の観点でチェックしてください。
- 現金がマイナスの月はないか。1つでもあれば、その事業は今の前提では回りません。
- 損益分岐は何食(何ヶ月目)か。手計算(96万円÷480円=2,000食)と、モデルの数字が一致するか。
- 前提を1割動かすとどうなるか。ここが感応度分析です。
感応度分析では、効きの大きい前提から触ります。生存売上コラムでも触れたとおり、弁当店で一番効くのは単価です。単価を1割上げて880円にすると、限界利益は560円になり、損益分岐は約1,715食まで下がる。逆に単価を1割下げて720円にすると、限界利益は400円に痩せ、損益分岐は2,400食まで跳ね上がります。「単価を1割下げたら、必要な客数が2割増える」——この効きの非対称を、モデルは即座に見せてくれます。
ここで、審査する側にいた経験から一つ。私が事業者にお勧めしているのは、あえて厳しめの前提でモデルを作り、「それでも回る」ことを見せるやり方です。ある創業のご相談で、初速の客数を強気に置いた計画を、あえて2割落として組み直したことがあります。「立ち上がりは遅れるかもしれませんが、その前提でも資金は保ちます」。この一言が言えるかどうかで、金融機関の安心感はまるで変わります。強気の数字を一本出すより、下振れシナリオでも現金が尽きないことを示した計画のほうが、はるかに通りやすい。感応度分析は、その下準備という意味合いも持っています。
