補助金

山梨県賃金アップ環境改善事業費補助金|対象外になる経費と提出書類15点・補助率4/5【令和8年度】

山梨県賃金アップ環境改善事業費補助金|対象外になる経費と提出書類15点・補助率4/5【令和8年度】のカバー画像
池田計画合同会社

公開日:2026年7月9日 更新日:2026年8月1日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)

「最低賃金が1,052円まで上がって、来年も上がる。賃上げはするつもりだが、その分どこかで会社に返ってくるものはないのか」。山梨県内の経営者から、この時期よくいただく質問です。国の業務改善助成金と並んで、まず候補に挙がるのが山梨県独自の山梨県賃金アップ環境改善事業費補助金です。

結論から言えば、この補助金は「時給30円以上の賃上げを行う山梨県内の中小企業が、休憩室やトイレの改修など労働環境の改善に投資した費用の4/5(一部地域は9/10)を、県が補助する制度」です。1事業場あたりの上限は最大130万円、キャリアアップ助成金などとの連携要件を満たせば最大260万円まで広がります。

【2026年8月1日時点の受付状況】令和8年度・環境改善コースは2026年5月11日に受付が始まり、2026年8月31日(月)まで。審査で優劣を競う方式ではなく先着順で、予算の執行状況によっては期間の途中で終了します。県の公式ページ・事務局サイトのいずれにも、8月1日時点で受付終了の告知は出ていません(県公式ページ/2026年6月24日更新)。スキルアップ研修推進事業費補助金の受付は11月30日までです。

私は元銀行員として法人融資の審査に長く携わり、いまは診断士として山梨県内の補助金申請を支援しています。その現場の感覚で言うと、この補助金は「賃上げを既に決めている会社にとっては、使わない理由を探すほうが難しい制度」です。一方で、対象経費の線引き(国の業務改善助成金との棲み分け)に独特のクセがあり、そこを知らずに計画すると空振りします。

この記事は、県の令和8年度の募集要領Q&A(令和8年5月11日から適用)の原文を読み込んだうえで、公式ページには書かれていない「申請できないケース」「提出書類の中身」「締切からの逆算」を実務目線で補います。


山梨県賃金アップ環境改善事業費補助金とは?

この補助金は、物価高騰に対応した中小企業の継続的な賃上げを後押しするため、一定の賃金引き上げに取り組む山梨県内の中小企業事業者が、労働環境の改善に使った経費の一部を県が補助する制度です。ポイントは「賃上げそのもの」にお金が出るのではなく、賃上げとセットで行う職場環境への投資に対してお金が出るという構造です。

令和8年度の募集は、次の2本立てです。

コース内容補助率受付期間(2026年)
環境改善コース休憩室・トイレ改修など労働環境改善の設備投資等4/5(大月市・上野原市・南部町は9/10)5月11日〜8月31日(先着順・予算上限で早期終了あり)
スキルアップ研修推進事業費補助金従業員の人材育成・教育訓練のための研修費用10/10(上限30万円)5月11日〜11月30日

注意したいのは、過去の年度に存在した「上乗せコース」「拡大コース」「DX研修」は、令和8年度の募集には見当たらないという点です。検索すると商工会議所や士業のページで旧年度のコース構成のまま残っている解説が多く出てきますが、現在申請できるのは上の2つです。制度の中身は年度で変わるので、必ず山梨県の公式ページ(令和8年度)の募集要領で確認してください。

なおスキルアップ研修推進事業費補助金は、原則として環境改善コースの交付決定を受けた事業者が申請するものです(同時申請は可能)。研修だけ単独で使うことはできません。研修を受けるのが事業主や役員でも対象になる、という珍しい特徴があります。

対象になるのはどんな会社?(要件チェックリスト)

要点を先に言うと、「山梨県内の事業場で、社内の最低時給が1,052円以上1,500円以下。そこから30円以上の賃上げを行い、県のスリーアップ認証を受ける(見込みで可)中小企業」が対象です。主な要件は次のとおりです。

  • 山梨県内に事業場がある中小企業であること(業種ごとに資本金または従業員数で判定。例:一般産業は資本金3億円以下または従業員300人以下、小売業は5千万円以下または50人以下)
  • 事業場内最低賃金が1,500円以下であること。かつ申請時点で山梨県の地域別最低賃金(2026年5月1日時点で1,052円)以上であること
  • 2026年3月14日〜2027年2月10日に、事業場内最低賃金を30円以上引き上げること。引き上げ後の額を就業規則等でその事業場の下限賃金と定めること
  • 「豊かさ共創スリーアップ実践企業」の認証を受けていること(申請時は取得見込みでも可。アドバンス・プレミアムどちらでも可)
  • 申請日前おおむね6か月以内に解雇等を行っていないこと、県税の滞納がないこと

「事業場内最低賃金」とは、その事業場で働く労働者(雇い入れ後6か月を経過した人)のうち、最も低い時間当たり賃金のことです。月給制の人は「月給÷1か月平均所定労働時間」で時給換算します。賞与や時間外手当、通勤手当・家族手当などは計算に入れません。ここの算定を誤ると要件判定そのものがずれるので、最初に賃金台帳で正確に押さえるのが実務の出発点です。

募集要領を読むと、「解雇等」の範囲が思っているより広いことにも気づきます。文字どおりの解雇だけでなく、退職勧奨による退職、時間当たり賃金の引き下げ、所定労働時間の短縮や所定労働日の減少によって月額賃金が下がった場合も「解雇等」に含まれます。シフトを減らして月給が下がった従業員がいる、というだけで要件から外れることがあるので、6か月前まで遡って確認してください。

「豊かさ共創スリーアップ実践企業」は、スキルアップ・生産性向上・賃金アップの好循環に取り組む企業を山梨県が認証する制度です。申請時は認証審査の受付メールがあれば足りる(取得見込みで可)ので、未取得でもこの補助金をあきらめる必要はありません。詳細は県の認証制度ページをご覧ください。

正直に書いておくと、この制度には割り切れないところがあります。要件が「事業場内最低賃金1,500円以下」である以上、すでにしっかり賃金を払ってきた会社ほど、この補助金の枠から外れていくという構造になっているからです。私も、きちんと賃上げを続けてきた社長から「ちゃんとやっている会社がもらえないんですね」と言われたことが何度もあります。制度の側の理屈は分かるのですが、納得しづらい気持ちのほうもよく分かります。枠から外れた場合は、賃上げ要件のない小規模事業者持続化補助金や、設備投資側の制度に組み替えて考えるのが現実的です。

申請できないのはどんな場合?(見落としやすい制限要件)

要件を満たしていても、過去の申請歴や会社の資本関係によって申請できない、あるいは上乗せが使えないケースがあります。県の公式ページの概要には出てこないものの、募集要領には明記されている制限を整理します。

ケース取り扱い
令和7年度第2期(2025年12月1日〜2026年3月13日)に申請し、3月14日以降の賃上げ計画で申請していたその引き上げ分では今回申請できない
過去に本補助金で補助上限額を上乗せして申請した事業場今回の申請で再度の上乗せはできない(同じ事業場での再上乗せ不可)
過去に業務改善助成金・拡大コース・環境改善コースの交付を受けた事業場その事業完了日以後の賃金が、当時定めた事業場内最低賃金を下回っていないことが条件
大企業が株式の1/2以上を保有しているなど「みなし大企業」に当たる対象外
直近3年の課税所得の年平均額が15億円を超える対象外
新規事業の開始や新しい事業場の開設のための設備投資既存の労働環境を改善する制度のため対象外

逆に、過去に上乗せコース・拡大コース・環境改善コースを申請したことがあるだけなら、今回あらためて申請することは可能です(前回の賃上げ完了日以後に事業場内最低賃金を引き下げていないことが条件)。「前に使ったからもう無理だろう」と思い込んで見送っている会社が、県内には相当数あると感じています。

いくらもらえる?補助率と上限額の早見表

補助額は「対象経費×4/5(大月市・上野原市・南部町の事業場は9/10)」と「賃上げした人数で決まる上限額」の低いほうです。上限額は、事業場の規模が30人未満だと優遇されます。

賃金引き上げ労働者数上限額(30人以上の事業場)上限額(30人未満の事業場)
1人30万円60万円
2〜3人50万円90万円
4〜6人70万円100万円
7〜9人100万円120万円
10人以上120万円130万円

さらに、次のどちらかに当てはまる場合は、上の表と同じ額がもう一度上乗せされます(=上限が実質2倍)

  • 厚生労働省のキャリアアップ助成金について、2025年4月1日以降に山梨労働局から支給決定の通知を受けている
  • 2026年4月1日以降にやまなしキャリアアップ・ユニバーシティ(CUU)の講座を修了、もしくは受講申し込みをした(交付申請時は受講見込みでも可)

数字で見たほうが早いので、募集要領の算定例をもとに具体化します。従業員10名の製造業が150万円の設備投資をして2名の賃金を30円引き上げ、CUUを受講するケース。補助率で計算すると150万円×4/5=120万円、上限額は90万円+90万円=180万円。低いほうが交付額なので、150万円の投資に対して120万円が戻ってくる計算です。手出しは30万円+消費税分。補助率4/5という数字は、国の補助金ではまず見ない水準です。

複数の店舗・事業場をまとめて申請する場合は、会社全体で1,000万円(上乗せ該当なら1,600万円)が上限になります。「最大1,600万円」という宣伝文句はこの多店舗ケースの話で、1事業場だけなら上限は最大130万円(上乗せ該当で最大260万円)です。ここは誤解が多いので先に押さえておいてください。

何に使える?対象経費と「使えない経費」の落とし穴

対象になるのは「労働環境の改善」に資する設備投資等です。生産性を上げるための投資は、この補助金ではなく国の業務改善助成金の領域とされ、対象外になります。ここがこの制度いちばんのクセです。

対象になる典型例は次のようなものです。

  • 快適な職場環境づくり:休憩室の設置・改修、トイレや洗面所の改修、空調・換気・照明など作業環境の改善、身体負担の大きい作業方法の改善
  • 従業員の健康保持:健康測定・運動指導・メンタルヘルスケアの実施や、そのための施設・設備の整備
  • 労働災害の防止:転倒・腰痛予防などの対策、安全衛生教育
  • 多様な人材への配慮:子育て・シニア・障がいのある方・外国人従業員が働きやすい環境整備、女性の要望を取り入れたオフィス・社宅の整備
  • これらを進めるための研修・経営コンサルティング

一方で、対象外の代表例が次です。私が相談を受けていて「そこは残念ながら…」とお伝えすることが多いポイントでもあります。

  • 生産性向上・時間短縮が目的の設備——例えば「この機械で作業時間が減って休憩が取りやすくなる」という理屈は通りません。募集要領のQ&Aでも、労働能率の向上に資する設備は業務改善助成金等の対象となるため本補助金の対象外、と明記されています
  • 食事会・社員旅行などレクリエーション費用、広告宣伝費などの通常の事業活動経費
  • 単なるパソコンの買い替え、電子レンジ・炊飯器などの備品・什器(原則対象外)——ただし労働環境改善に直接資することを合理的に説明できれば認められる場合があります
  • 乗用の車両(貨物用途や福祉車両などの特種用途自動車を除く)
  • 老朽化した設備を同等品に入れ替えるだけの更新、法令上そもそも義務のある設備の後追い整備
  • 交付決定日より前に発注・実施した経費、消費税

つまりこの補助金は、「稼ぐための投資」ではなく「働く環境を良くするための投資」専用です。逆に言えば、これまで「利益に直結しないから」と後回しにしてきたトイレ改修や休憩室の整備を、賃上げのタイミングで一気に片付けられる制度だと捉えると、使いどころが見えてきます。

私が補助金の相談を受けるとき、工事や設備の中身より先に見るのは「その制度の目的と、社長がやりたいことが合っているか」です。目的に合っていない申請は、書き方を工夫してもまず通りません。この補助金でいえば、判断基準は「その投資で従業員の働く環境が良くなるか」の一点で、生産性や売上の話を持ち出した瞬間に土俵が変わります。

境界線で迷いやすいところは、県のQ&Aが具体例で答えています。実務で聞かれることが多いものを抜き出しました。

迷いやすいケース県Q&Aの回答
設備導入で作業時間が短縮され、結果として休憩時間が確保できる対象外。労働能率の向上に資する設備導入は業務改善助成金等の領域
中古品を買いたい対象になるが、型式・年式が同程度の物品で中古品流通事業者2者以上の相見積もりが必要。事業者以外からの取得は対象外
設備を自社で施工・製造する原則対象外。ただし施工に要する原材料費のみを事業費とするなら対象
老朽化・破損した設備の更新同等性能への入れ替えは対象外。上級機を導入して労働環境の改善につながると認められれば対象
設備の運賃・搬入費・取付費用導入に係る費用として対象
リース料・保守料・ライセンス料実績報告前に支払われたものが対象。複数年分を前払いした場合は実施年度を含め3年分まで
除雪機を入れたが、実績報告までに雪が降らず効果を示せない過去に除雪機を使わない除雪の実績があり、労働環境の改善が明らかに見込めるなら実績がなくても対象(使用頻度が極端に低いものは除く)

備品・什器が「原則対象外」とされているのは、電子レンジや炊飯器のような汎用品を想定した線引きです。ただしQ&Aは、厚生労働省の指針等に照らして労働環境改善に直接資することが明確で、かつ申請書類でその効果を合理的に説明できる場合は対象とすることがある、とも書いています。「対象になりますか」と聞く前に、「なぜこれが労働環境の改善なのか」を説明できる形にしておくと、判断が動く余地はあります。

業務改善助成金とどう違う?併用はできる?

一言で言えば、「生産性を上げる投資は国の業務改善助成金、職場環境を良くする投資は県のこの補助金」という役割分担です。どちらも「事業場内最低賃金の30円/50円以上の引き上げ」を軸にした制度なので混同しやすいのですが、対象経費が意図的に住み分けられています。

山梨県賃金アップ環境改善事業費補助金(環境改善コース)業務改善助成金(国・令和8年度)
実施主体山梨県厚生労働省(窓口は山梨労働局)
賃上げ要件30円以上50円・70円・90円の3コース
対象経費労働環境改善(休憩室・トイレ・健康・安全など)生産性向上の設備投資(機械・システムなど)
補助率4/5(一部地域9/10)3/4または4/5
賃上げのタイミング2026年3月14日以降なら交付申請前でも可交付決定後に実施が原則
受付2026年8月31日まで(先着順)2026年9月1日受付開始。締切は地域別最低賃金の発効日の前日または11月30日の早いほう

併用のルールも整理しておきます。同一の事業(同じ設備投資)に両方を使うことはできません。また、業務改善助成金を申請済みの場合は、その賃上げ完了後の事業場内最低賃金が、こちらの補助金での「引き上げ前」の基準になります。つまり同じ30円の賃上げを両制度で二重にカウントすることはできない一方、別の事業・別の経費であれば、国と県の両方を活用する道はあります

賃上げを要件に組み込んでいるのは、国の補助金にもあります。たとえば中小企業省力化投資補助金の一般型は、大幅な賃上げに取り組む事業者ほど補助上限が引き上がる仕組みです。設備投資と賃上げを同時に検討している場合は、省力化投資補助金 一般型の解説記事もあわせてご覧ください。

実務では、この2つは対立ではなく順番の問題です。私が支援した県内のある製造業では、複数の設備投資計画を「県の制度で取る分」と「国の制度で取る分」に最初から切り分けて設計しました。判断基準はシンプルで、先着順で書類が軽い県の制度から先に動き、審査があり時間のかかる国の制度を後に置く。県の補助金は予算がなくなれば終わりなので、動きの速さがそのまま採否になります。業務改善助成金の詳しい中身は業務改善助成金の解説記事にまとめています。

申請の流れとスケジュール——先着順だから「早さ」が採択率

この補助金には、事業計画の優劣を競う「採択審査」がありません。要件と書類が整った申請を先着順で受け付け、予算の上限に達したら終了します。大まかな流れは次のとおりです。

  • ①交付申請:申請書・事業計画書・収支予算書・見積書・賃金台帳(直近6か月分)・県税の納税証明などを事務局へ郵送またはメールで提出
  • ②審査・交付決定:書類が整ってから1〜2か月程度
  • ③事業の実施と賃上げ:交付決定後に発注・導入。2027年2月10日まで
  • ④実績報告:事業完了の30日後または2027年2月10日のいずれか早い日まで。請求書・納品書・領収書に加えて完了後の写真が必要(証憑の揃え方は補助金の実績報告の解説記事を参照)
  • ⑤補助金の入金:額の確定後の精算払(後払い)
  • ⑥状況報告:賃上げから6か月経過後に賃金台帳を添えて報告

提出先が2か所に分かれている点に注意してください。交付申請・実績報告は事務局(甲府市丸の内・日本旅行甲府支店内、電話055-232-4853)宛て、最後の⑥状況報告だけは県の働く人・働き方支援課宛てです。いずれも郵送、またはPDFを1つのファイルにまとめてメールで提出します。

交付申請の提出書類チェックリスト(全15点)

募集要領が挙げる交付申請書類は15点。うちア〜コの10点は原則全員、サ〜ソの5点は該当する場合のみです。準備の重さが読めないまま着手して締切に間に合わない、という事故がいちばん多いので、先に全体像を出しておきます。

書類つまずきやすい点
ア〜エ交付申請書・事業計画書・収支予算書・誓約書(様式第1号〜第1号の4)県ホームページから様式をダウンロード。記入見本あり
見積書の写し「一式」はNG。内訳が分かるように記載してもらう。諸経費が含まれる場合は費用項目を明記。中古品は2者以上の相見積もり
設備の内容・仕様がわかる書類(カタログ等)型番が分かるページを添える
現況写真導入場所や既存設備の状況を撮る。内装・レイアウト変更なら現状と変更後の図面も必要
県税に未納がない旨の証明書県税事務所での取得に日数がかかる
賃上げ対象労働者の賃金台帳の写し賃上げ前なら直近6か月分、賃上げ済みなら引上げ前6か月分+引上げ後
スリーアップ実践企業の認証書の写し未取得なら認証審査の受付メールの写しで可
事業場内最低賃金を規定した就業規則等の写し労働基準監督署の受付印があるもの。就業規則の変更が完了している場合
履歴事項全部証明書(法人)発行から6か月以内のもの
直近の確定申告書一式(個人事業主)電子申告なら受信通知の写し。開業直後で実績がなければ開業届の写し
セ・ソキャリアアップ助成金の支給決定通知書/CUUの受講修了証上乗せを狙う場合のみ。受講見込みなら申し込み状況が分かる書類で可

この中で日数が読みにくいのは、ク(県税の証明書)、コ(スリーアップ認証の受付メール)、サ(労基署の受付印)の3点です。自社の手元だけで完結せず、外部の窓口を経由するからです。締切が近いときは、この3つから先に動かしてください。

就業規則をどう整えるか(10人未満の事業場・パート従業員の場合)

この補助金は、引き上げ後の賃金額を「その事業場で使う労働者の下限賃金」として就業規則等に定めることを求めています。ここで実務が止まりやすいのが、就業規則を労基署に届け出ていない小規模事業場です。

県のQ&Aは、届出をしていない場合の代替手順を具体的に示しています。①引き上げ後の事業場内最低賃金と賃上げ日を定め、作成者(事業場名)・作成年月日を記載した書面を作る、②就業規則に準じて労働者代表からの意見書を添付する。この2点をそろえれば、就業規則の写しに代えられます。この書面は労基署への届出は不要ですが、作成後に労働者へ周知する必要があります。なお一般的な労働契約書や労働条件通知書は、就業規則に準ずるものには当たらないと明記されています。

もう1つ、パート従業員だけ賃上げする場合。設定した事業場内最低賃金は事業場の全労働者に適用する必要があるため、雇用形態ごとに就業規則が分かれているなら、すべての規則を改正するか、いずれかの規則に「全労働者に適用する」旨を記載します。パート用だけ直せば済む話ではありません。

そのほかの実務上の注意点です。発注は交付決定後が原則で、納期や在庫の都合でどうしても先に発注が必要な場合は「事前着手届」(様式第6号)を出せば発注だけは認められます。ただし届出によって交付が確約されるわけではなく、事前着手後に交付決定されなくても異議は申し立てられないと要領に明記されています。賃上げ自体は2026年3月14日以降であれば申請前に実施していても構いませんが、30円以上の引き上げを2回に分けることはできず、1回で行う必要があります。支払いは現金または申請者名義の銀行振込のみで、クレジットカード・小切手・手形は使えません。細かいようですが、実績報告で引っかかる典型ポイントです。

8月31日の締切から逆算すると、いま何をすべきか?

8月に検討を始める場合、鍵になるのは「今年度の最低賃金改定をまたぐかどうか」です。募集要領とQ&Aは、改定日以降に賃上げを行うなら、改定後の地域別最低賃金を基準に30円以上引き上げる必要があると明記しています。改定前の水準を基準にした引き上げ分では申請できません。Q&Aはこの点を、988円から1,052円への改定を例にとって「発効日の当日に1,000円から1,052円へ引き上げ、その引き上げ分で申請することはできない」と具体的に説明しています。

いまの山梨県の地域別最低賃金は1,052円です(募集要領の注記で2026年5月1日時点の額として示されています)。募集要領は「例年10月頃に改定」と書いていますが、直近の改定は2025年8月27日の答申を経て2025年12月1日発効でした(山梨労働局。988円から64円の引き上げ)。改定の月は年によってずれます。答申が出るのはおおむね8月下旬なので、この記事を読んでいる時期はちょうど今年度の改定額が見えてくる頃合いです。

実務としては、賃上げの実施日を改定日より前に置くのか、改定後の新しい額を織り込んで計画するのかを、申請前に決めておくことになります。8月に「30円上げれば足りる」と見積もって計画を組み、実施を改定後にずらすと、必要な引き上げ幅そのものが変わってしまうからです。答申額は山梨労働局のサイトで公表されるので、賃上げ日を秋以降に置く予定なら必ず確認してください。

スケジュールの全体像は次のとおりです。交付決定までは「県が書類が整ったことを確認できてから1〜2か月程度」と要領に示されています。

時期やること注意点
いま(8月上旬)賃金台帳の確認・事業場内最低賃金の算定/スリーアップ認証の申請/見積依頼認証は取得見込みで可だが、受付メールの写しが要る
8月中旬県税の証明書取得/就業規則の改正と労基署への届出/内訳付き見積の受領外部窓口を経由する3点(県税・認証・労基署)が律速
8月31日(月)交付申請書の提出(郵送またはメール)予算上限に達した場合は期間中でも終了。少ない金額での交付決定もあり得る
9〜10月頃審査・交付決定書類が整ってから1〜2か月程度。発注はこの後
交付決定後〜2027年2月10日設備の発注・導入と賃上げの実施賃上げは1回で30円以上。改定後の最低賃金が基準になるかを確認
事業完了の30日後または2027年2月10日の早いほう実績報告請求書・領収書に加えて完了後の写真が要る
賃上げから6か月経過後状況報告(提出先は県)報告対象期間中の賃金台帳の写しを添付

逆算すると、交付決定が10月にずれ込んでも、事業の実施と実績報告に4か月弱しか残らないという点は先に見ておくべきです。工期の長い改修や、納期の読めない設備は、この期間に収まるかを見積段階で業者に確認しておいてください。

先着順の制度なので、いちばん知りたいのは「予算はまだ残っているのか」でしょう。これはWeb上では分かりません。事務局(055-232-4853/平日9〜17時)に電話で確認するのがいちばん確実です。要領には、受付期間中に予算額に達した場合は算出額より少ない金額で交付決定する場合がある、とも書かれています。満額前提で資金計画を組まないほうが安全です。

どうしても今年度の環境改善コースに間に合わない場合は、無理に急いで書類の質を落とすより、使える別の枠に切り替えるほうが得策です。スキルアップ研修推進事業費補助金の受付は11月30日までありますし、生産性向上の設備投資であれば国の業務改善助成金が本来の受け皿になります。私は、補助金は「締切に合わせて事業を歪める」ものではなく「事業の予定に合う制度を選ぶ」ものだと考えています。今年の予定に合わないなら、来年度の募集を前提に賃金台帳と認証の準備を先に済ませておく、という判断も十分にありです。

【元銀行員の視点】立て替え・賃金台帳・その設備は担保に入れられるか

最後に、制度の説明書には書いていないけれど実務で差がつく点を4つ。

1つ目は資金繰りです。この補助金は精算払、つまり設備代は一度全額立て替えます。150万円の投資なら、120万円が戻ってくるまでの数か月間、150万円+消費税を自社の資金で回すことになります。しかも補助の対象は税抜金額なので、消費税は自己負担です。加えて、賃上げした人件費は補助が終わったあともずっと続く固定費です。私は融資審査の側にいた人間として、「補助金で戻ってくる額」より「立て替え期間の手元資金」と「賃上げ後の人件費増を吸収できる利益体質か」を先に確認することをおすすめします。

立て替えに手元資金が薄い場合は、金融機関への相談を申請と並行して進めてください。融資は1日や2日で出るものではありません。設備の納品時期が見えた段階で早めに話を通しておくかどうかで、資金繰りの余裕がまったく変わります。後払いの補助金と融資の組み合わせ方は補助金のつなぎ融資の解説記事にまとめています。

2つ目は賃金台帳です。賃上げ要件のある制度は、申請書を書き始める前に賃金台帳の整備状況を確認するのが鉄則です。私が確認するのは3つの軸で、①月別・個人別・項目別に分解されているか ②基本給・手当・残業代・控除が個人単位で追えるか ③社会保険・雇用保険の徴収額と整合しているか。実際、ある支援先では賃金台帳が月別・個人別に整理されていなかったために、申請が一時ストップしたことがあります。この補助金でも交付申請時に直近6か月分(賃上げ済みなら引上げ前6か月分と引上げ後)の賃金台帳が必要で、時給換算の計算もここから行います。「まず賃金台帳、それから申請書」の順番だけは崩さないでください。

3つ目は、補助金で入れた設備には「その後」があるという話です。募集要領には、1件あたりの取得価格が50万円以上の財産は、法定耐用年数に相当する期間(処分制限期間)を経過するまで、知事の承認を受けずに用途変更・譲渡・交換・貸付・担保の用に供することができないと書かれています。ここは融資審査を見てきた立場から特に伝えたいところで、補助金で導入した設備は、そのままでは担保に差し入れられないということです。将来その設備を担保に資金調達する構想があるなら、補助金を使う前に金融機関と話しておいたほうがいい。あわせて、発注書・契約書・請求書・領収書・通帳・賃金台帳などの証憑は、事業完了年度の翌年度から起算して5年間(50万円以上の財産を取得した場合は処分制限期間中)保存する義務があります。補助金は「もらって終わり」ではなく、書類を持ち続ける義務とセットです。

もう1点、事業計画を動かすときの線引きも押さえておいてください。補助対象経費の20%を超える増減、実施期間の延長、事業の中止・廃止などは「重要な変更」として県の変更承認が必要になります。見積より高くなった、仕様を変えたい、といった話は早めに事務局へ相談するのが安全です。

4つ目は、上乗せをあきらめなくていいという話です。交付申請の時点でキャリアアップ助成金の支給決定もCUUの受講もまだ、という会社は多いはずです。ただ県のQ&Aによれば、交付申請後に支給決定を受けたら変更承認申請書(様式第3号)で増額申請ができ、すでに実績報告を出した後であっても「交付申請兼実績報告書(追加)」(様式第9号)で上乗せ分を申請できます。この追加申請の期限は2027年2月10日です。申請時点の状況だけで上乗せを捨てないでください。

相談先の順番も書いておきます。制度そのものの質問(自社が対象か、この経費は使えるか、予算はまだ残っているか)は、まず事務局(055-232-4853)に直接聞くのが早くて確実です。書類の書き方や事業計画の相談は、会員であれば地元の商工会議所・商工会の経営指導員が窓口になります。加えて山梨県には、国や県の補助金申請を行政書士・社会保険労務士に依頼する費用の一部を支援する申請サポート事業もあります。自社だけで書類を整えるのが難しい場合は、こうした公的な支援と専門家をセットで使うのが現実的です。

池田計画合同会社では、この補助金を含めて「自社はどの制度が使えるか」の診断から、賃金台帳の確認、申請書類の作成、立て替え期間の資金繰り設計までワンストップでご支援しています。AI補助金診断・補助金支援サービスからお気軽にご相談ください。山梨県で使える制度の全体像は山梨県の補助金・助成金一覧で横断的に確認できます。

この補助金が自社の賃上げ計画に使えるかどうかを先に確認したい方は、お問い合わせフォームから賃金台帳と検討中の設備投資の内容をお知らせください。要件の該当確認から交付申請までサポートします。


よくある質問

賃上げの対象にした従業員が、交付決定後に自己都合で退職してしまいました。補助金の対象になりますか?

賃金を引き上げ、引き上げ後も退職の日まで勤務し、引き上げ後の賃金が支払われていれば、勤務日数にかかわらず対象になります。ただし実績報告の際に、事業完了報告書(様式第1号の2)の引き上げ労働者の内訳欄にその旨が分かるように記載し、社印の押印があり退職事由等の記載がある証明書類、または退職届の写しを併せて提出してください。

派遣スタッフや在籍出向で来ているスタッフも、賃金引き上げ労働者数に含められますか?

含められません。補助対象事業者が雇用し、給与を支払っている労働者ではないため、「常時使用する労働者の数」「賃金引き上げ労働者数」「事業場内最低賃金の算定」のいずれの対象にもならないと県のQ&Aに明記されています。上限額は賃金を引き上げた人数で決まるので、人数の数え方は最初に確認しておいてください。

歩合給を払っている従業員がいる場合、事業場内最低賃金はどう算定しますか?

固定給に加えて歩合給を払っている場合は、①申請直近1年間(雇い入れ後1年未満の人は少なくとも3か月間)の歩合給の合計額をその間の総実労働時間で割る、②その額に固定給の時間当たりの額を足す、③そのうち最も低い額を事業場内最低賃金とする、という順で算定します。賃上げの方法(固定給の引き上げ、歩合給の支給条件の変更など)は問われませんが、引き上げ後の各賃金算定期間で30円以上の引き上げが必要です。歩合給が低額になった期間は別途不足額以上を支払い、その旨を就業規則等に定める必要があります。

試用期間中の従業員や、入社して間もない従業員がいる場合はどう扱いますか?

見習い・研修・試用期間中の労働者について、一定期間経過後に予定されている賃金引き上げは、事業場内最低賃金の引き上げには当たりません。これら以外の労働者のうち最も低い賃金額を事業場内最低賃金とします。また、賃金引き上げの対象にできるのは雇い入れから6か月を経過した労働者で、社内で別の事業場から異動してきて6か月未満の場合でも、雇い入れからの通算で6か月を超えていれば対象です。個人事業主から法人化した直後でも、法人化前から雇い入れて6か月を経過していれば対象になり得ます。

スキルアップ研修推進事業費補助金は、社長や役員が受講しても対象になりますか?

対象になります。自社のスキルアップ推進のための研修であれば、受講者が事業主や役員であっても補助対象になると県のQ&Aに明記されています。補助率は10/10(上限30万円)で、受付は2026年11月30日まで。ただし原則として環境改善コースの交付決定を受けた事業者が申請するもので、研修だけを単独で使うことはできません(同時申請は可能です)。

どの補助金が使えるか、無料で診断します

採択率88.2%・元銀行員の中小企業診断士が、貴社に合う制度と申請までの道筋を初回無料でご案内します。

無料相談はこちら