公開日:2026年8月18日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
「まだリスケを頼むほどではない。ただ、このまま何も変えずに来期を迎えるのは怖い」。決算が出た直後に、こういう相談をいただくことがあります。数字は赤くない、返済も止まっていない、でも預金残高だけがじりじり減っている。そういう段階の会社に使える公的な仕組みが、早期経営改善計画です。
結論から言えば、早期経営改善計画とは、リスケを必要としない段階の中小企業が、認定経営革新等支援機関の支援を受けて資金繰り表やアクションプランを含む簡易な計画を作り、その費用の3分の2の補助を受ける制度です。正式には「早期経営改善計画策定支援」といい、2026年3月の改定にあわせて、中小企業庁の公表資料では通称が「バリューアップ支援事業(Vアップ事業)」に切り替わりました。窓口は各都道府県の中小企業活性化協議会です。
私は元銀行員として法人融資の審査に携わり、いまは中小企業診断士・認定経営革新等支援機関として、山梨を中心に融資や経営改善のご相談を受けています。銀行の側でこの手の計画を受け取る立場も、支援機関として作る立場も、どちらも経験しました。その両方から見て、この制度は「補助金をもらう制度」というより「外の目を入れる仕掛け」だと思っています。
ひとつ、先に申し上げておきたいことがあります。ネット上の解説記事で、この事業の補助上限額を旧来の金額のまま載せているものがかなり残っています。2026年に上限が引き上げられたためで、金額を見て判断すると読み違えます。この記事では中小企業庁の公表内容にそって現行の数字を示し、あわせて405事業との使い分け、そして山梨県で使う場合の上乗せ補助まで整理します。
早期経営改善計画とは?リスケの前段階で使う「簡易な経営改善計画」のこと
中小企業庁は、この事業のねらいを次のように説明しています。
本事業は、資金繰りの管理や自社の経営状況の把握などの基本的な経営改善に取り組む中小企業者等が、国が認定した税理士などの専門家である認定経営革新等支援機関の支援を受けて資金繰り計画やビジネスモデル俯瞰図、アクションプランといった内容の経営改善計画を策定する際、その費用の2/3を補助することで、中小企業者等の早期の経営改善を促すもの(中小企業庁「早期経営改善計画策定支援」より)
ポイントは「基本的な経営改善」という言葉です。ここでいう基本的とは、程度が軽いという意味ではなく、まだ金融機関に返済条件の変更をお願いしていない段階という意味だと理解してください。返済は約定どおり続けている、しかし手元資金が細っている。その局面で計画を作るための制度です。
窓口となる中小企業活性化協議会は、中小企業庁が「中小企業の活性化を支援する公的機関」と位置づけ、すべての都道府県に設置しています。前身は2003年創設の中小企業再生支援協議会で、2022年3月に公表された中小企業活性化パッケージによって経営改善支援センターと統合され、いまの名称になりました。協議会が持つ支援メニューは5つあり、症状の重さに応じて並んでいます。
| フェーズ | 支援メニュー | おおまかな局面 |
|---|---|---|
| 収益力改善 | 収益力改善支援 | 収益力の低下・借入増加のおそれがある |
| 早期経営改善計画策定支援(Vアップ事業) | 金融支援は要らないが、経営を立て直したい | |
| 再生 | プレ再生支援・再生支援 | 事業に収益性はあるが財務に問題がある |
| 経営改善計画策定支援(405事業) | リスケなど金融支援を伴う本格的な立て直しが必要 | |
| 再チャレンジ | 再チャレンジ支援 | 再生が極めて困難/保証債務の整理 |
この並びを見ると、早期経営改善計画がどこに位置する道具なのかがはっきりします。いちばん軽い段階の、しかも「自力ではまだ手をつけられていない」会社のための入口です。協議会への相談自体は無料で、秘密も厳守されます。ただし事前予約が必要で、民事再生や破産をすでに申し立てている企業は対象になりません。
補助率と上限額はいくら?2026年の改定で何が変わったのか
補助率は3分の2です。中小企業庁が公表している現行の補助対象費用と上限額は、次のとおりです。
| 補助対象経費 | 補助率 | 上限額 |
|---|---|---|
| 計画策定支援費用 | 2/3 | 50万円 |
| 伴走支援費用(モニタリング費用) | 2/3 | 30万円 |
数字だけ見てもぴんと来ないと思うので、実際にお客さまに説明するときと同じように噛み砕きます。計画策定の費用が75万円かかったとすると、その3分の2にあたる50万円が補助され、手出しは25万円です。上限が50万円ということは、費用75万円あたりが満額補助の射程で、それを超えた分は全額自己負担になります。伴走支援も同じ考え方で、費用45万円までなら3分の2が補助されて上限30万円に届く計算です。
これに加えて、中小機構や都道府県の活性化協議会の案内では、企業概要書作成費用と金融機関交渉費用(いずれも任意・上限各10万円)が補助対象費目として示されています。使えるかどうかは支援の組み立てによって変わるので、利用申請の前に必ず協議会で確認してください。
2026年3月26日の改定で公表された変更点
中小企業庁は2026年3月26日、「中小企業における事業再生支援のあり方検討会」の議論を踏まえて、この事業と405事業の手引き・FAQ等を改定したと公表しました。公表資料に書かれている主な内容は次のとおりです。
| 対象 | 適用日 | 主な内容(中小企業庁の公表どおり) |
|---|---|---|
| 早期経営改善計画策定支援 【金融機関を除く支援機関が支援する場合】 | 2026年3月31日 | 補助上限額の引き上げ/計画に実態貸借対照表を追加/伴走支援内容の強化 等 |
| 早期経営改善計画策定支援 【金融機関が支援する場合】 | 2026年5月1日 | 民間金融機関が支援を実施する中小企業の対象先の見直し/民間金融機関が実施する伴走支援を補助対象に追加/補助上限額の引き上げ/計画に実態貸借対照表を追加 等 |
| 経営改善計画策定支援(405事業・通常枠) | 2026年5月1日 | 策定する計画に数値基準を導入/対象となる金融支援の見直し 等 |
実務で効いてくるのは、上限額が引き上げられたことと、計画に実態貸借対照表が加わったことです。実態貸借対照表は、帳簿上の資産を時価などの実態に引き直して純資産を見る表で、銀行が自己査定でやっていることとほぼ同じ作業です。回収の見込みが薄い売掛金、動かない在庫、含み損のある固定資産。これらを引いたあとに純資産が残るのか。この一枚が入ったことで、この計画は「前向きな夢を書く紙」から「現在地を直視する紙」に寄りました。作る側としては手間が増えますが、私は良い改定だと思っています。
405事業の「数値基準の導入」と「対象となる金融支援の見直し」については、中小企業庁の公表文にこれ以上の記載がありません。405事業を検討している場合は、2026年5月1日改定版の手引き・マニュアルを直接ご確認ください。
通称が「ポスコロ事業」から「Vアップ事業」に変わっている
もうひとつ、検索するときに引っかかる話をしておきます。この事業は長らく「ポスコロ事業(ポストコロナ持続的発展計画事業)」の通称で呼ばれていました。2026年3月の改定を伝える中小企業庁の発表では、表題そのものが「早期経営改善計画策定支援(Vアップ事業)」となっており、中小企業庁のトップページでも「バリューアップ支援事業」の表記に切り替わっています。一方で、旧通称を含んだ資料名がそのまま残っている箇所もあります。
つまりいま検索して出てくる「ポスコロ事業」の解説記事は、多くが2026年改定前の内容だということです。実際、この記事を書く前に上位表示されている民間の解説記事を読み込んだところ、1万字を超える大作でも補助上限額が改定前の数字のままでした。金額と通称は、必ず公式ページで突き合わせてください。
405事業(経営改善計画策定支援)とはどう違う?どちらを選ぶべきか
この2つは、名前が似ているうえに補助率がどちらも3分の2なので混同されがちです。決定的な違いは金融支援を伴うかどうかの一点にあります。
| 項目 | 早期経営改善計画策定支援 (Vアップ事業) | 経営改善計画策定支援 (405事業・通常枠) |
|---|---|---|
| 想定する局面 | 金融支援は必要ない。資金繰り管理や採算管理から立て直したい | リスケなど金融支援を伴う本格的な経営改善が必要 |
| 計画の重さ | 簡易な計画(資金繰り計画・ビジネスモデル俯瞰図・アクションプラン等) | デューデリジェンス(DD)を伴う本格的な計画 |
| 補助率 | 2/3 | 2/3 |
| 計画策定支援の上限 | 50万円 | 200万円(DD・計画策定支援) |
| 伴走支援の上限 | 30万円 | 100万円 |
| 金融機関交渉費用 | 任意(協議会に要確認) | 10万円(経営者保証の解除を目指した計画で交渉する場合・任意) |
| 金融支援の要否 | 前提としない(計画の提出は必要) | 返済条件の変更等の金融支援を伴うことが前提 |
405事業には、これとは別に中小版GL枠があります。中小企業の事業再生等に関するガイドラインに基づいて再生または廃業の計画を作る場合の枠で、DD費用等が上限300万円、計画策定支援費用が上限300万円、伴走支援費用が上限100万円(いずれも補助率2/3)です。第三者支援専門家の手続きに係る費用も補助対象に含まれます。
どちらを選ぶかの分かれ目
迷ったときは、次の順に見ていくと整理できます。
- いま、返済を止めないと資金が回らないか。止めないと回らないなら405事業です。早期経営改善計画は金融支援を前提にしていません
- 返済を止めれば手元に現金が残る体質か。営業赤字で、返済を止めても現金が残らないなら、計画の前に事業そのものの手当てが要ります
- 上の2つがどちらもノーで、しかし数字の管理ができていないか。ここが早期経営改善計画のど真ん中です
2番目は経験から入れています。返済を止めれば止めた分がそのまま手元に残る、だから収益力が戻るまでの時間が買える。これはリスケの正しい使い方ですが、成り立つのは営業段階で黒字か、黒字化の見通しが立っている場合だけです。営業赤字のままリスケに入っても、止めた返済分は減っていく現金を少し遅らせるだけで終わります。返済条件変更そのものの進め方は「リスケとは|銀行融資の返済条件変更のデメリットと進め方」で詳しく書きました。
逆に、3番目に当てはまる会社はかなり多いと感じています。決算書は税理士が作ってくれる、しかし月次でいくら残るかは社長の頭の中にしかない。そういう状態で「来月は大丈夫か」と毎晩考えているくらいなら、公的な補助を使って一度きちんと表にしたほうが早いです。初回の無料相談では、まずどちらのメニューに当たる局面なのかを整理するところから始めています。
対象になるのはどんな会社?計画に何を書くのか
対象は中小企業・小規模事業者および個人事業主で、資金繰り管理や採算管理といった基本的な経営改善に取り組もうとしている先です。都道府県の活性化協議会の案内では、前提として「いまのところ返済条件等の変更は必要ない」状態であることが示されています。
計画に盛り込む内容は、複数の協議会が共通して次のように案内しています。
- ビジネスモデル俯瞰図(収益の仕組みと商流の見える化)
- 経営課題の内容と、解決に向けた基本方針
- 実施計画(アクションプラン)およびモニタリング計画
- 実態貸借対照表
- 損益計算書等の計数計画
- 資金繰表(実績・計画)
中小企業庁は参考様式として「早期経営改善計画 ひな形(3年計画用)」を公開しており、同等以上の内容が備わっていれば別の様式でも構わないとしています。計画期間を3〜5年程度、伴走支援を3年間・少なくとも年2回以上と案内している協議会もあります。運用に幅があるところなので、自社の都道府県の協議会で確認してください。
いちばん重い作業は資金繰表です
この6点のうち、初めて作る会社がほぼ必ず時間を取られるのが資金繰表の実績部分です。過去12か月分を通帳と会計データから起こす作業で、ここを他人任せにすると計画全体が空洞になります。書き方は「資金繰り表の作り方|エクセルテンプレート無料DL・銀行提出用」にテンプレートつきでまとめてあるので、事前に手を動かしておくと支援機関との打ち合わせが一気に進みます。
ただし、ひとつ注意があります。私は資金繰表を作っているのに資金ショートを避けられていない会社を、何度も見てきました。表を作ること自体は目的ではありません。資金繰表は結果であって、改善策ではないからです。「こんなにお金が足りない」と分かっていても、日々の業務に追われれば手は打てない。経営者が本当に必要としているのは、外から「ここがおかしい」と指摘される強制力のほうです。この制度に伴走支援(モニタリング)が組み込まれ、2026年の改定でその内容が強化されたのは、そこに理由があると私は理解しています。