公開日:2026年7月17日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
「経営分析をやってみたいが、指標が多すぎてどれを見ればいいか分からない」「税理士から決算書をもらっても、数字の意味が掴めない」。経営者の方から、そんな相談をよくいただきます。検索して出てくる解説は、収益性・安全性・生産性と指標を何十個も並べた教科書型が多く、結局どの数字から手を付ければいいのかには答えてくれません。
経営分析とは、決算書などの数字から会社の収益性・安全性・効率性を測り、強みと課題を特定して経営の打ち手につなげる、会社の健康診断のことです。難しい理論は要りません。中小企業なら、見るべき数字は実はそれほど多くないんです。
私は元銀行員として法人融資の審査に携わり、何百社もの決算書を「貸してよいか」の目で分析してきました。いまは中小企業診断士・認定経営革新等支援機関として、山梨を中心に経営者の側から同じ数字を見ています。この記事では、教科書どおりの指標一覧をただ並べるのではなく、銀行が決算書のどこから見るのかという審査側の順番と、中小企業が明日から使える無料ツール・AIの使い方まで、実務に絞って解説します。
経営分析とは何か──財務分析との違い
経営分析は、決算書(貸借対照表・損益計算書など)の数字を使って会社の状態を測る財務分析を土台に、そこへ数字に表れない情報(商流、技術力、人材、取引先との関係など)を重ねて、会社全体の強み・課題を把握する取り組みです。財務分析は経営分析の一部、と整理すると分かりやすいと思います。
両者の違いを厳密に線引きすることに、実務上の意味はあまりありません。大事なのは順番です。まず財務の数字で「事実」を掴み、次に数字の背景にある「理由」を非財務の情報で説明する。数字だけ見ても打ち手は出ませんし、数字を見ずに「うちの強みは技術力だ」と語っても、それは分析ではなく願望です。
銀行員時代、経営者の方によくこんな言い方をしていました。決算書の数字は「体温や血圧」で、商流や現場は「生活習慣」です。熱が出ている(利益率が下がっている)ことは数字で分かりますが、なぜ熱が出たのかは生活習慣を聞かないと分からない。経営分析は、この両方をセットで見る健康診断だと考えてください。
経営分析では何を見るのか──5つの分析と代表指標一覧
教科書的には、経営分析は5つの切り口に整理されます。それぞれの代表指標と計算式を一覧にします。全部を計算する必要はありません。まず自分の会社で「どれが急所か」に当たりを付けるための地図として見てください。
| 分析の切り口 | 何が分かるか | 代表指標 | 計算式 |
| 収益性 | 儲かる力 | 売上高営業利益率 | 営業利益 ÷ 売上高 |
| | 売上総利益率(粗利率) | 売上総利益 ÷ 売上高 |
| 安全性 | 潰れにくさ | 自己資本比率 | 純資産 ÷ 総資産 |
| | 流動比率 | 流動資産 ÷ 流動負債 |
| 生産性 | 人が生む付加価値 | 労働生産性(一人当たり粗利) | 売上総利益 ÷ 従業員数 |
| 効率性(活動性) | 資産の回転 | 棚卸資産回転期間 | 棚卸資産 ÷ 月商 |
| | 売上債権回転期間 | 売上債権 ÷ 月商 |
| 成長性 | 伸びているか | 売上高増加率 | (当期売上 − 前期売上)÷ 前期売上 |
指標の「良い・悪い」は業種で大きく変わります。飲食業と卸売業では適正な粗利率がまったく違いますし、在庫を持たないサービス業に棚卸資産回転期間は意味がありません。だから、指標は絶対値ではなく「自社の過去」と「同業の平均」との比較で読むのが基本です。比較のやり方は後述の4ステップで説明します。
銀行は決算書のどこを見ているのか──元銀行員が最初に確認していた数字
ここからが、教科書にはあまり書かれていない話です。融資審査の現場では、上の一覧表を上から順に計算したりはしません。見る順番が決まっています。私が審査していたときに最初に確認していたのは、次の数字でした。
| 順 | 見る数字 | 何を確かめるか |
| 1 | 現預金残高(月商の何か月分か) | 当面、資金が持つか |
| 2 | 簡易キャッシュフロー=経常利益+減価償却費(税引後で見ることも) | 年間いくら返す力があるか |
| 3 | 債務償還年数=有利子負債 ÷ 簡易キャッシュフロー | いまの借入を何年で返せるか |
| 4 | 自己資本比率と純資産の推移 | 債務超過でないか、利益が積み上がっているか |
| 5 | 実態に引き直すと消える資産(回収見込みのない売掛金、社長への貸付金、価値の落ちた在庫など) | 決算書の見た目と実態のズレ |
共通しているのは、利益より先に「現金が回るか・返せるか」を見ることです。5番目は意外に思われるかもしれませんが、銀行は決算書を額面どおりには受け取りません。資産の中身を一つずつ点検して、実態の貸借対照表に引き直してから自己資本比率を評価します。自社の経営分析でも、この「実態に引き直す」目を持つと、数字の精度が一段上がります。
返済負担の目安も、実務では単純でした。税引後の簡易キャッシュフロー(税引後利益+減価償却費)に対して、年間の返済元金が5割程度に収まっていれば、まだ投資や追加借入の余力があります。8割に近づくと、銀行が新しい長期融資を出せるかどうかの境目。10割を超えたら、稼ぎより返済が多い状態で、手元資金を取り崩しながら回していることになります。経常利益+減価償却費(税引前)で速算した場合は、ここから税金も出ていく分を割り引いて見てください。そして正直に言えば、5割でも経営者の体感としては軽くありません。だからこそ8割に近づく前に動く。私が融資相談を受けるときは、今もまずこの割り算から入ります。自社の返済負担がどの水準にあるか、電卓一つで確かめられますので、ぜひ一度計算してみてください(設備投資が大きい業種や不動産賃貸業は、返済期間が長い前提の別の物差しで見ます)。運転資金がいくら必要かの計算方法は運転資金の計算方法で詳しく解説しています。
黒字なのにお金がない──損益計算書だけ見る経営分析の落とし穴
経営分析でいちばん多いつまずきは、指標の計算ミスではなく、損益計算書(PL)しか見ないことです。
以前、ある物販の会社から「黒字なのに手元のお金が足りない」という相談を受けたことがあります。損益計算書は確かに黒字でした。原因は貸借対照表の側にあります。単価の高い仕入れを優先して在庫が積み上がり、利益が現金ではなく在庫に変わっていた。加えてカード決済の比率が上がって入金が後ろ倒しになり、決済手数料も利益を削っていました。売上が伸びる局面ほど、在庫と立て替えが先に膨らんで現金が出ていく。成長している会社ほど起きやすい現象です。
このケースで効いた指標が、先ほどの一覧にあった棚卸資産回転期間と売上債権回転期間です。「在庫が月商の何か月分あるか」「売った代金が何か月後に入るか」。この2つを時系列で並べるだけで、現金がどこに滞留しているかは見えてきます。利益が出ているのにお金が残らない会社は、まずここを疑ってみてください。日々の現金の動きを掴む道具としては、資金繰り表の作り方でテンプレート付きの手順をまとめています。
中小企業の経営分析は何から始めればいいか──4ステップ
ここまでの話を、実際の手順に落とします。特別な道具は要りません。決算書3期分があれば今日から始められます。
ステップ1:直近3期の決算書を横に並べる
最初にやるべきは他社比較ではなく、自社の時系列比較です。売上・粗利・営業利益・現預金・借入残高の5項目を3期分並べるだけで、「増えているもの・減っているもの」の傾向が見えます。1期分の数字は点ですが、3期並べると線になり、線になって初めて「どちらへ向かっているか」が語れます。
ステップ2:業界平均と比べる
次に、同業と比べます。比較先としては、中小企業庁が毎年実施している中小企業実態基本調査が使えます。業種別・従業員規模別に中小企業の財務データの平均が公表されており、無料で確認できます。「自社の粗利率は同業平均より3ポイント低い」といった具体的な差が分かると、打ち手の優先順位が付けやすくなります。
ステップ3:見る指標を3〜5個に絞る
一覧表の指標をすべて追いかけるのは、続きません。自社の商売の急所に当たる指標だけを3〜5個選ぶのが実務的です。在庫を持つ商売なら棚卸資産回転期間、人が資本のサービス業なら労働生産性、借入が大きいなら債務償還年数。選び方に迷ったら、先ほどの「銀行が見る順番」の1〜4をそのまま使うのが手堅い選択です。
ステップ4:年1回の分析を、毎月の数字に落とす
決算書ベースの経営分析は、年1回の健康診断です。それだけだと、結果が出たときには状況が次へ進んでいます。選んだ3〜5個の指標を月次で追いかける仕組みに落とせると、変化に早く気づけるようになります。この月次の仕組みづくりが管理会計で、考え方は管理会計とはに、数字を毎月見える形にする方法は経営ダッシュボードの作り方にまとめています。
経営分析に無料で使えるツールは?──ローカルベンチマーク(経産省)
「計算式を一つずつ手で計算するのは大変」という方には、経済産業省が提供しているローカルベンチマーク(通称:ロカベン)をおすすめします。国が「企業の健康診断ツール」として公開しているもので、無料で使えます。
Excelのシートに決算書の数字を入れると、次の6つの財務指標が自動計算され、業種平均と比較した点数まで付きます。
- ①売上高増加率(売上持続性)
- ②営業利益率(収益性)
- ③労働生産性(生産性)
- ④EBITDA有利子負債倍率(健全性)
- ⑤営業運転資本回転期間(効率性)
- ⑥自己資本比率(安全性)
④のEBITDA有利子負債倍率は、大まかに言えば先ほどの債務償還年数と同じ発想(借入を返す力で割って何年分か)の指標で、⑤の営業運転資本回転期間は在庫や売掛金にお金がどれだけ寝ているかを見る指標です。銀行が見るポイントと、国のツールが測るポイントは、かなりの部分で重なっているわけです。
ロカベンは財務6指標のシートに加えて、「商流・業務フロー」「4つの視点」という非財務の2枚が付いた3枚組になっています。数字の背景(どこから仕入れ、誰に、何を強みに売っているか)まで一緒に棚卸しできる構成で、金融機関や支援機関との対話ツールとしても広く使われています。シートは経済産業省のローカルベンチマークのページからダウンロードできます(2026年7月時点。最新版はリンク先でご確認ください)。
AIで経営分析はできるか──決算書の数字から指標を出す使い方
最近は「決算書をAIに読ませて分析できないか」というご質問も増えました。指標の計算と整理までなら、生成AI(ChatGPTやClaudeなど)は十分に実用になります。使い方は2通りあります。
指示型:決算書の主要数値を貼り付けて、そのまま指示する形です。
- 「この2期分の決算数値から、売上高営業利益率・粗利率・自己資本比率・棚卸資産回転期間を計算して、前期からの変化が大きい順に表にしてください」
対話型:何を渡せばいいか分からないときは、AIに質問させる形が使えます。
- 「私は中小企業の経営者です。経営分析をしたいので、必要な数字を1つずつ質問してください。すべて答えたら、指標の一覧表と、気になる点を3つにまとめてください」
注意点も2つあります。まず、AIが出した計算結果は必ず自分で検算すること。私も記事や支援の場でAIに計算させることがありますが、電卓での確かめ算とセットにしています。次に、決算書は会社の機微情報ですから、入力したデータが学習に使われない設定・サービスを確認してから使うことです。そして何より、指標の計算はAIに任せられても、その数字を受けて何をやめ、何に投資するかを決めるのは経営者の仕事です。AIは分析の下ごしらえを速くする道具、と割り切って使うのがよいと思います。エクセルとAIを組み合わせた実演は財務モデルの作り方で画面付きに解説しています。
分析した数字を「打ち手」につなげるには
経営分析は、指標を計算して終わりでは意味がありません。最後は必ず「だから何をするか」に落とします。このとき役に立つ判断軸を一つ紹介します。
売上や利益が落ちている会社の相談では、私はまず原価や経費に削減の余地が残っているかを確認します。すでに経費が管理されていて削減余地が1〜2割しかない会社なら、経費削減のインパクトは小さい。その場合は売上拡大や単価の見直しに軸足を移し、数値計画は客数×客単価に分解して組み立てます。逆に経費の管理が緩い会社なら、まず可視化と削減から入る。同じ「利益率の低下」でも、原因によって打ち手は逆方向になるんです。損益分岐点から必要売上を逆算する方法は固定費から逆算する「生存売上」の出し方で解説しています。
池田計画合同会社では、決算書の分析から月次で数字を追う仕組みづくり(管理会計・経営ダッシュボード)までを一貫してご支援しています。銀行がどんな目で自社の決算書を見ているのか知りたい、という段階のご相談も歓迎です。サービスの詳細は経営の見える化支援を、ご相談はお問い合わせフォーム(初回無料)からどうぞ。
よくある質問
経営分析には何期分の決算書が必要ですか?
最低2期分、できれば3期分をおすすめします。1期分では良し悪しの判断材料が乏しく、3期並べると傾向(改善しているのか悪化しているのか)まで読めるようになります。創業して決算が1期分しかない場合は、月次試算表を並べて代用できます。
経営分析におけるCCCとは何ですか?
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)は、仕入れ代金を払ってから売上代金を回収するまでの日数を表す指標で、「売上債権回転期間+棚卸資産回転期間−仕入債務回転期間」で計算します。中小企業では、まず売上債権と棚卸資産の回転期間を別々に見るだけでも実務には十分です。
会計ソフトに付いている経営分析機能だけで十分ですか?
グラフ化や指標の自動計算という点では十分使えます。ただし、出てきた数字が業界水準と比べてどうか、原因はどこにあり何を変えるべきかという解釈と打ち手の部分は、ソフトは教えてくれません。計算はソフトやAIに任せ、解釈に時間を使う分担が実務的です。
ローカルベンチマークは補助金や融資の申請にも使えますか?
使えます。ローカルベンチマークは国の各種施策と連携しており、経営力向上計画の申請などで活用されているほか、金融機関との対話資料としても想定されています。経営力向上計画については経営力向上計画とはで解説しています。
経営分析は誰に相談すればよいですか?
身近な公的窓口としては、地域の商工会議所・商工会で経営相談を受けられます。決算書の分析から資金調達や経営改善まで踏み込んで相談したい場合は、中小企業診断士などの専門家や認定経営革新等支援機関に相談する方法があります。当社でも初回無料でご相談をお受けしています。
監修:池田哲郎。八十二銀行で法人融資の審査・経営改善支援に従事し、事業計画と決算書を「審査する側」として100件超を見てきた経験を持つ。現在は中小企業診断士・認定経営革新等支援機関として、山梨県で財務・経営改善・補助金の支援を行う。本記事の制度・ツール情報は経済産業省・中小企業庁の公表内容(2026年7月時点)に基づきます。
資金繰り・経営の数字のご相談はお気軽に
銀行に出す前の資金繰り表や計画の数字を、元銀行員・中小企業診断士がチェックします。初回のご相談は無料です。
無料相談はこちら