公開日:2026年7月28日 更新日:2026年9月13日 執筆:池田哲郎(中小企業診断士・認定経営革新等支援機関/池田計画合同会社 代表)
「補助金が1,000万円決まりました」とご報告をいただいたあとで、決まって出てくる質問があります。「これ、税金は取られるんですか」。答えは「取られます」です。そして次に出てくるのが「圧縮記帳というのを聞いたのですが」という言葉です。
結論から言えば、圧縮記帳とは「固定資産の取得に充てた補助金について、受け取った年に課税される利益を、その資産の帳簿価額を減らすことで将来へ繰り延べる制度」です。税金が消えるわけではなく、支払う時期が後ろにずれるだけです。そして対象になるのは「固定資産を買った補助金」だけで、広告費や人件費に使った補助金は対象になりません。厚生労働省の助成金も同じ物差しで判定します。
私は元銀行員として法人融資の審査に長く携わり、いまは中小企業診断士として補助金の申請から採択後の実務までをご支援しています。その立場で先にお伝えしておきたいのは、圧縮記帳の話でいちばん実害が出るのは仕訳の書き方ではない、ということです。実害が出るのは、税金を払う時期と補助金が振り込まれる時期がずれることに気づかないまま決算日を迎えてしまうケースです。順に整理します。
補助金に税金はかかる?かからなくする方法はあるのか
補助金は受け取った年度の収入(益金)になり、法人税等の課税対象です。そして圧縮記帳は、その課税をなくす制度ではなく、将来に先送りする制度です。
ものづくり補助金の事務局が公表している補助事業の手引きにも、「補助金は経理上、支払を受けた事業年度における収入として計上するものであり、法人税等の課税対象となります」と明記されています。非課税の制度ではありません。
ここで多くの方が引っかかるのが、感覚とのずれです。1,000万円の機械を買って、補助金が667万円入ってくる。手元には667万円が残るように思えますが、税務上は667万円がまるごと利益として立ち上がります。一方、機械の1,000万円は買った年に全額費用になるわけではなく、耐用年数にわたって少しずつ減価償却されていきます。つまり「収入は一度に、費用は分割で」という形になり、初年度だけ利益が大きく膨らむのです。
法人税の実効税率をざっくり30%とすると、667万円の補助金に対して約200万円の税負担が初年度に乗ります。この歪みを均すために用意されているのが圧縮記帳です。根拠条文は法人税法第42条(国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入)です。
圧縮記帳とは?「税金が消える」ではなく「先送り」である仕組み
圧縮記帳は、補助金の額だけ固定資産の帳簿価額を減らし、同額を損金に入れることで、その年の課税所得をゼロに戻す処理です。帳簿価額が減った分、翌年以降の減価償却費が小さくなるので、その年数をかけて課税所得が戻ってきます。
数字で見たほうが早いので、先ほどの例で置きます。取得価額1,000万円・耐用年数10年・定額法の機械に、補助金667万円が交付されたとします。
| 圧縮記帳をしない場合 | 圧縮記帳をする場合 | |
|---|---|---|
| 初年度の補助金収入 | 667万円(益金) | 667万円(益金) |
| 初年度の圧縮損 | なし | 667万円(損金) |
| 機械の帳簿価額 | 1,000万円 | 333万円 |
| 毎年の減価償却費 | 100万円 | 33.3万円 |
| 初年度の課税所得への影響 | +567万円 | 0円 |
| 10年間の合計 | 同額(差は生じない) | |
10年間を通算すれば、税金の総額は変わりません。変わるのは払う順番だけです。この点は、お客さまに最初にお伝えするようにしています。「節税になりますよ」という説明の仕方をすると、数年後に「話が違う」となるからです。
それでも圧縮記帳を使う価値があるのは、補助金が入る年は設備代を立て替えていて手元資金がいちばん薄い年だからです。その一番苦しい年に200万円の納税を回避し、余裕が出た年に少しずつ払う。資金繰りの平準化のための制度だと捉えると、判断を誤りにくくなります。
どの補助金なら圧縮記帳できる?判定は「固定資産を買ったか」で決まる
法人税法第42条が対象にしているのは「固定資産の取得又は改良に充てるための国又は地方公共団体の補助金又は給付金」です。制度名で決まるのではなく、その補助金を何に使ったかで決まります。
競合する解説記事では「ものづくり補助金・持続化補助金・IT導入補助金は圧縮記帳の対象」と制度名の一覧で説明されていることが多いのですが、この書き方は実務では危ういと感じています。同じ持続化補助金でも、機械装置を買った部分は対象になり、チラシやホームページの制作費に充てた部分は対象になりません。判定の単位は制度ではなく経費区分です。
| 使い道 | 圧縮記帳 | 理由 |
|---|---|---|
| 機械装置・器具備品・建物附属設備の購入 | 対象になり得る | 固定資産の取得に充てた補助金 |
| 建物・設備の改修(資本的支出) | 対象になり得る | 固定資産の改良に充てた補助金 |
| ソフトウェアの導入(無形固定資産) | 対象になり得る | 同上 |
| 広告宣伝費・展示会出展費・専門家経費 | 対象外 | 固定資産を取得していない |
| 人件費・研修費への助成 | 対象外 | 同上 |
| 10万円未満で一時に費用処理した備品 | 対象外 | 固定資産として計上していない |
もうひとつ、意外に知られていない論点があります。ものづくり補助金も持続化補助金も、国が直接お金を振り込んでくるわけではなく、全国中小企業団体中央会や商工会議所などの事務局を経由して交付されます。形式だけを見れば「国からの直接交付」ではないので、条文に当てはまらないようにも読めます。
この点について国税庁は質疑応答事例で、「補助金交付団体は国に代わって補助金の交付事務を行っているに過ぎず、実質的に国から直接交付を受けたものと認められる場合には、国庫補助金等に該当する」との考え方を示しています。基金を通じて交付される場合、地方公共団体の財源をもとに間接交付される場合も同様とされています(令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づく)。事務局経由でも圧縮記帳が使えるのは、この解釈が根拠です。
逆に、対象にならないものとしてはっきり書かれているのが、市町村の工場誘致条例などに基づく奨励金です。法人税基本通達10-2-4は、それが実質的に税の減免に代えて交付されたものであることが明らかであると認められるときは国庫補助金等に該当しない、としています。地方の独自制度を使うときは、県や市に「これは補助金か、税の減免の代替か」を確認しておくと安全です。
助成金は圧縮記帳できる?厚生労働省の助成金は「何に充てたか」と「計上する年度」で分かれる
厚生労働省の助成金でも、固定資産の取得に充てた部分は圧縮記帳の対象になり得ます。一方、休業手当や賃金、訓練費を補う助成金は対象外で、益金に計上する年度の決まり方も補助金とは異なります。
申請の実務では、補助金と助成金は窓口も審査の仕組みも違うので、別物として扱います(違いは補助金と助成金の違いで整理しています)。ところが法人税法第42条は、名前で線を引いていません。対象は「固定資産の取得又は改良に充てるための国又は地方公共団体の補助金又は給付金」です。名前が助成金でも、国から出て設備の取得に充てたものなら同じ判定に乗りますし、助成金の多くが対象外になるのは「助成金だから」ではなく、そもそも設備を買うためのお金ではないからです。
よく相談に出てくる制度を、この物差しで並べるとこうなります。
| 制度 | 何に対して出るか | 圧縮記帳 | 益金に計上する年度の考え方 |
|---|---|---|---|
| 雇用調整助成金 | 休業手当などの一部 | 対象外 | 休業の事実があった年度(金額が未確定なら見積もって計上) |
| 人材開発支援助成金 | 訓練経費や訓練期間中の賃金の一部 | 対象外 | 訓練の事実があった年度(同上) |
| 業務改善助成金 | 賃上げとセットで行う設備投資等の費用の一部 | 機械装置等の購入に充てた部分は対象になり得る | 交付額の確定通知を受けた年度(補助金と同じ枠組み) |
| デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金) | ソフトウェア購入費・クラウド利用費・導入関連費 | ソフトウェア購入費は対象になり得る。クラウド利用料は対象外 | 額の確定通知を受けた年度(交付規程は適正化法に基づき、額の確定の通知後に交付) |
休業手当や賃金を補う助成金は、入金前でも「その年度」に計上する
雇用調整助成金の受給額は、休業を実施した場合に事業主が支払った休業手当負担額などに助成率を掛けて計算されます(厚生労働省 雇用調整助成金)。人材開発支援助成金は「訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度」とされています(厚生労働省 人材開発支援助成金)。どちらも固定資産を取得するお金ではないので、圧縮記帳の出番はありません。
見落とされやすいのは、計上する年度のほうです。法人税基本通達2-1-42は、次のように定めています(国税庁 法人税基本通達 第2章第1節第7款)。
法人の支出する休業手当、賃金、職業訓練費等の経費を補填するために雇用保険法、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律、障害者の雇用の促進等に関する法律等の法令の規定等に基づき交付を受ける給付金等については、その給付の原因となった休業、就業、職業訓練等の事実があった日の属する事業年度終了の日においてその交付を受けるべき金額が具体的に確定していない場合であっても、その金額を見積り、当該事業年度の益金の額に算入するものとする。
補助金は「額の確定通知」が基準でしたが、経費を補う助成金は休業や訓練をした事実の年度が基準です。3月決算の会社が2月・3月に休業を実施し、支給申請と支給決定が決算後になったとしても、税務上は3月期の収益として見積もって計上することになります。休業手当という費用がその期に出ている以上、それを補う収入も同じ期に立てる、という考え方です。
同じ通達の注には、定年の延長や高齢者・障害者の雇用など「雇用の改善を図ったこと等により」交付を受ける奨励金は、支給決定があった日の属する事業年度に計上する、とも書かれています。助成金の名前だけでは、どちらの扱いになるか決まりません。何を補うお金なのかを支給要領で確認し、顧問税理士と計上年度をすり合わせておくのが確実です。
業務改善助成金は、名前は助成金でも手続きの骨格は補助金と同じ
業務改善助成金の交付要綱を開くと、冒頭の正式名称は「中小企業最低賃金引上げ支援対策費補助金」で、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(適正化法)の規定によると書かれています。要綱第14条では、所轄労働局長が実績報告を審査して「交付すべき額を確定し」、様式第11号「交付額確定及び支給決定通知書」で通知する流れです(厚生労働省 業務改善助成金・令和8年4月22日適用の交付要綱)。
同じ要綱の様式第12号にも「適正化法第15条の規定による確定額」という欄があります。次の節で詳しく見ますが、法人税基本通達10-2-1の注は、適正化法第15条による額の確定通知を受けた補助金を「返還を要しないことが確定した」ものとしています。業務改善助成金もこの土俵に乗るので、圧縮記帳の判定時点は確定通知を受けた事業年度と考えるのが自然です。
ただし、業務改善助成金は1本の助成金の中に、固定資産になるものとならないものが混ざります。令和8年度の交付要領(別紙3)が並べている対象経費の区分を、圧縮記帳の目で分けるとこうなります。
| 交付要領の経費区分 | 圧縮記帳の見方 |
|---|---|
| 機械装置等購入費・造作費(据付費用) | 固定資産として計上するなら対象になり得る |
| 委託費(システム開発会社等への委託) | 成果物をソフトウェアとして資産計上するかどうかで分かれる |
| 謝金・旅費・借損料・印刷製本費・原材料費・経営コンサルティング経費 | 固定資産の取得ではないので対象外 |
助成額は「対象経費×助成率」と「上限額」の低いほうで決まるので、設備に充てた金額を経費区分ごとに切り分けて計算する必要があります。按分の方法は条文に書かれていないため、顧問税理士と決めておいてください。なお、令和8年度の要領では、パソコン・タブレット・スマートフォンは機械装置等購入費から除かれており、POSシステムなど特定業務専用のシステムを動かす目的が明らかな場合に限って対象となる場合がある、という扱いです。制度そのものの要件は業務改善助成金の解説記事にまとめています。
同じ支出でも、費目の決め方で圧縮記帳の可否が変わる
デジタル化・AI導入補助金2026の通常枠は、補助対象経費を「ソフトウェア購入費、クラウド利用費(クラウド利用料最大2年分)、導入関連費」としています(中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局・通常枠公募要領)。買い切りのソフトウェアは無形固定資産になり得ますが、月額で払うクラウド利用料は費用なので、同じ補助金の中でも圧縮記帳できる部分とできない部分が分かれます。制度の全体像はIT導入補助金の解説をご覧ください。
費目の決め方が効いてくる場面は、申請の段階から始まっています。ある創業期のサービス業の方の助成金申請で、ホームページの制作費を広告宣伝費として組むか、無形固定資産として減価償却していくかが、提出直前に顧問税理士の判断で入れ替わったことがありました。申請書の上では費目の選び方の話ですが、税務の上では、その支出が圧縮記帳の対象になり得るかどうかの分かれ目でもあります。
もうひとつ、複数の制度を併用するときの注意です。業務改善助成金のQ&A(問47)は、他の助成金等と助成対象が同一の設備投資等に要する費用でなければ併せて受けられるが、補助目的が重複すれば併給調整の対象になり得る、としています。そこで私は「基幹のシステムは省力化投資補助金で、その拡張機能は業務改善助成金で」というように、取組を分けて組み立てるご提案をすることがあります。この場合、圧縮記帳も補助金ごと・資産ごとに計算することになります。固定資産台帳に登録する段階で、どの資産にどの補助金がいくら入ったかを分けて記録しておくと、決算で手が止まりません。
いつの決算に載る?「額の確定通知」が先、入金は後という順番
ここが実務でいちばん事故が起きるところです。補助金の入金より前に、税務上の収益計上と圧縮記帳の判定時点が来ることがあります。
法人税法第42条は、圧縮記帳ができるのは「その国庫補助金等の返還を要しないことが当該事業年度終了の時までに確定した場合に限る」と定めています。では「返還を要しないことが確定した」のはいつか。法人税基本通達10-2-1の注が、その答えを書いています。
補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第15条《補助金等の額の確定等》の規定により交付すべき補助金等の額が確定し、その旨の通知を受けた国庫補助金等は、返還を要しないことが確定した国庫補助金等に該当する。
つまり基準になるのは、実績報告と確定検査を経て事務局から届く「額の確定通知」です。そして補助金の振込は、その通知のあとに行われます。ものづくり補助金の手引きにも「補助事業実績報告書の提出を受け、補助金額の確定後の精算払となります」と書かれているとおりです。
この順番を時系列に置くと、決算日の位置によって景色が変わることが見えてきます。
| 時期の例 | できごと | 税務上の意味 |
|---|---|---|
| 2026年6月 | 交付決定 | まだ何も確定していない |
| 2026年12月 | 設備の検収・支払(全額自己負担で立替) | 資産計上・資金は出ていく一方 |
| 2027年2月 | 実績報告・確定検査 | 審査中 |
| 2027年3月10日 | 額の確定通知 | 返還不要が確定=圧縮記帳の判定時点 |
| 2027年3月31日 | 決算日 | この期の申告で処理する |
| 2027年5月 | 補助金の入金 | お金が届くのは申告書を作っている最中 |
3月決算の会社で確定通知が3月に届いた場合、お金は5月にしか入ってこないのに、税務処理は3月期のものとして考えることになります。もし圧縮記帳の適用を失念していれば、入金前に納税だけが先に来ます。設備代を全額立て替えて手元が薄くなっている時期に、まだ入っていない補助金への税金を払うという、いちばん避けたい形です。
私が面談で必ず確認するのは、決算日と、確定通知の見込み時期です。実際に「注意が必要なのが、補助金の上限の税抜きの金額に対する三分の二なので、消費税は自己負担になります」「システムを今回購入されるときは、金融機関からお金を借りて、一時的に全額立て替えないといけないんですね」といった説明を初回にしています。立替と納税の両方が同じ時期に来ることを、採択の喜びの前に一度お伝えしておくためです。
なお補助金の入金までのつなぎ資金については、補助金つなぎ融資の解説記事で相談先と進め方をまとめています。立替期間の資金計画は、資金繰り表に納税予定まで入れて可視化しておくと判断を誤りません。
ひとつ補足しておきます。事務局の手引きは「支払を受けた事業年度における収入として計上する」という簡潔な表現を使っており、法人税法・通達の「返還不要が確定した事業年度」という要件とは、書きぶりが一致していません。確定通知と入金が同じ事業年度に収まるケースがほとんどだからだと思われますが、決算日をまたぐ場合はどちらの年度で処理するかで税額が変わります。通知日・入金日・決算日の3つを並べて、顧問税理士と処理年度を確定させてから動くのが確実です。